3 屋上にて
「ふむふむ、なるほどな。まず貴様は昨日リサと一緒に本屋に行き、その時に少しばかり踏み入った話をしたと」
「ああ。ちょっとリサの昔話をな」
「本屋を出た後、貴様はリサの身体に接触。帰り道は二人乗り自転車で寮まで来た」
「そうだ。ギア最大でな」
「それで寮に着いた時、リサについてどう思っているか聞かれたと」
「あぁ。マジで意味が分からんかった」
「そしてその質問の返答に困った貴様が接触した時に感じたリサの身体についての感想を述べたところ、怒らせてしまった。これが昨日学校を出た後の一連の流れというわけだな」
「そういうことだ」
昼休み、学校の屋上にて俺は鈴音に昨日リサが怒ってしまった理由を相談していた。
なぜここで鈴音をチョイスしたかの理由は、俺にもよく分からない。
しかし、何となくこの場合相談する相手は、優奈でも早川でも、当然リサでもなく鈴音が適任だと思ったのだ。
あくまで、何となくだけどな。
「貴様はバカか」
「何でだよ!」
前言撤回。
やっぱり相談する相手を間違えた気がする。
「鈍感もそこまでいくとむしろ清々しいな。まさか貴様、わざとやってるわけではないだろうな」
「お生憎様。わざとやってるとしたらお前には相談しねぇよ」
「ふはは、そうだろうな。しかし客観的に見たらその鈍感さは面白いことこの上ない。いっそのこと解決なんかせずにそのままでいてほしいくらいだ」
何てこと言いやがる。
「はぁ……やっぱり相談する相手を間違えたかもしれねぇな」
「何を言う。私のカウンセリングの腕は確かなものだぞ?」
「冗談よせよ」
始まって早々「貴様はバカか」なんて言うカウンセラーがどこの世界にいる。
「まぁ、私から言えるのはいつも通り、自分で答えを探せということだな」
「だと思ったぜ」
俺は座りっぱなしで少し重くなった腰を上げると、鈴音もそれに次いで腰を上げ、俺の方を見る。
「いいか優也。私からその答えを貴様に明かすことはできる。しかしそれではダメなのだ。それでは貴様も成長しない上に、その答えの先にあるものに気づくことができない」
「その先にあるもの?」
「そうだ。例えば……」
鈴音はずっと手に持っていた焼きそばパンの袋を破り、中身を取り出すと四分の一ほど手で切り取り、残りをまた袋に戻した。
「これは私が先ほど購買で買ってきた焼きそばパンだ」
「そりゃ、見りゃ分かるけどよ」
「それをこうして……」
鈴音は焼きそばパンにかぶりつき、半分ほど食べた。
そしてそのパンを俺の口元に近づけてくる。
「な、なんだ?」
「それ、あーん」
「あ、あーん?」
多少怪しみながらもとりあえず口を開く俺。
そして鈴音の手で、小さくなった焼きそばパンが俺の口に運ばれる。
「どうだ?」
「うん、美味い」
流石に購買の焼きそばパンは評判が良いだけあって、そこら辺のコンビニのものよりもずっと美味しかった。
しかし……。
「これがなんだって言うんだ? 焼きそばパンもらっただけじゃねぇか」
「はぁ……優也、貴様はこの場面、味以外何も感じなかったのか?」
軽く呆れたようにそう言う鈴音。
しかし呆れられた理由が分からない。
「あぁ。焼きそばパンが美味いってことしか感じなかったな」
「そこだ。貴様が求めているものは」
「へ? 焼きそばパンが美味いってことがか?」
「違う。味以外に本来感じるべきもの。それが貴様の求めている答えであり、それが分かればおのずとその先にあるものも見えてくるのだ」
「味以外に本来感じるべきもの……」
「それが分かるまでは答えは出ないぞ。私のカウンセリングはこれで終わりだ。さぁ、教室に帰るぞ」
「あ、あぁ……なんか納得いかねぇな」
俺は鈴音に手を引かれ、屋上の扉をくぐる。
「ちなみにこの場面でも、思春期の男子であれば貴様の知りたい答えを感じるものだぞ?」
「なんだよそのパワースポットみたいな言い方」
「……貴様はライトノベルを読むのならもう少し青春モノを読むことをお勧めする」
これまた呆れたように言う鈴音。
いや、一応読んでるんだけどな……。
俺がライトノベルにのめり込むきっかけを作ったのもラブコメだし……。
しゃーない、鈴音じゃラチがあかないから教室に帰ったら優奈にでも……。
「あ、あとそれから今私にした相談は、優奈にはするな」
「な、なんでだよ」
びっくりした。
心読まれたかと思ったぜ。
「それは流石に優奈が可哀想だ」
「……了解」
釈然としないが、鈴音の目が稀に見るマジな目になっていた。
たまに真面目なこと言うからなコイツは。
なんでこの相談を優奈にしちゃいかんのか分からんけど。
「それではな。また部活で」
「あぁ、急に呼び出して悪かった」
クラスが違う鈴音と別れた後、俺は購買へと急いだ。
さっき食べた焼きそばパンが異常に美味しかったからつい買いたくなってしまったのだ。
しかし、流石に美味いだけあって無くなるのは早く、既に焼きそばパンは売り切れになっていた。
俺は先ほどの鈴音とのやり取りで得られるはずだった答えについて、焼きそばパンの代わりに購買で買ったあんぱんを頬張りながら考えてるうちに昼休みは終わった。
☆
「おい中川、昼休みに一緒に歩いてた女子誰だよ」
六限目が終わると、クラスメイトの横澤が急に話しかけてきた。
正直横澤とは喋ったことがないから、俺としてはとてつもなく話しづらい。
それに昼休みに歩いてた女子って……鈴音か?
「あいつはただの部活仲間だ」
「ってことは、彼女でもなんでもないんだな?」
「まさか」
あいつが彼女?
考えただけでゾッとする。
「んで、そいつがどうかしたのかよ」
「いやー、めちゃくちゃ可愛いじゃん? あの子。お前の彼女じゃないなら狙っちゃおうかなって思って」
「俺からのアドバイスだ。やめとけ」
どうなっても知らんぞ。
俺は忠告したからな。
「なんでだよ。別にいいだろ? 彼女じゃないんだから」
「いやまぁ、そうだけどよ……」
そうか……あいつ、顔だけはめちゃいいもんな。
でもそれだけ正体を知った時の衝撃はでかいけど。
「よし、俺はいつか、あの子に告白する!」
右手で握りこぶしを作りながら絶望へのカウントダウンを唱える横澤。
「はぁ……せいぜい夢を見てろよ。俺は部活に行く」
「お⁉ あの子のいるところにか? 俺も行こっかな。それであわよくば仲良く……」
「来んな」
横澤の顔に動揺が浮かぶ。
俺はこの時、いつの間にか少し強めの口調になってしまっていた。
「お、おいおい、冗談だろ? そんな本気にするなって」
「わ、悪い。なんか急に変な声になっちまって」
「気にすんな。俺も部活があるからそろそろ行くわ」
「あぁ」
荷物を持って教室から出て行く横澤。
クラスメイトが鈴音に好意を抱いているという事実に驚きを覚えつつ、なんとなく歯がゆいというか、変な気持ちのまま俺は部室へと向かった。
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