6 宮原鈴音の超大作

 鈴音のノートを見ると、早川と比べて書いてある項目は断然に少ない。

 起承転結にまとめられてあるだけだ。


「あれ?キャラ設定とかは?」


「これは私の勝手な考えだが、キャラ設定は後になっても構わないと思ってる。大まかなストーリーを自分の中で展開し、物語の骨組みを作る。その後、各種設定を付け加えて行き、肉付けをしていくのだ。悪くない手法だろう? ちなみに、異能力バトルものを書きたいと思っている」


「あー、なるほどね」


 確かに全然悪くない手法だ。

 というか、こっちがスタンダードなのかもしれないな。

 俺は最初にキャラ設定を考えるタチでやったことないから分からないけど、そのやり方なら後から各種設定を考えるから、ストーリー進行とキャラ設定が矛盾したりとかはあまりしないかもしれない。

 骨組みを考えて、後から肉付けか。

 今度やってみるか。


「しかしまぁ、俺のネタ帳見た後のくせに、こうやって自己流のやり方を見つける辺り、流石は鈴音だよ」


「そうか? その言葉は素直に嬉しいぞ優也。これは少し濡れてきてしまったかもしれないな」


「黙れ変態。俺が言ってるのは、流石普段からラノベやゲームに染まった生活を送ってるだけのことはあるなってことだ。他意はない」


「そこは他意があって欲しかったぞ。宮原ルート、早くもフラグ立てに失敗したようだな」


「訳がわからん」


 宮原ルートってなんだよ。

 鈴音の家への帰り道のことか?


「これだから鈍感系主人公は……」


「なにイラついてるんだよ」


「別にイラついてなどいない。それよりも早く読め。その為に貴様を呼んだのだから」


「分かったよ……」


 なんか釈然としないな……。

 俺なんか鈴音を怒らせるようなこと言ったかな……。

 そんなことを思いながら鈴音の書いた文字に目を通すと、


「…………っっっっっ!!」


 絶句した。


「どうしたの? 優也」


 俺の絶望感に満ちた顔に反応し、心配しているのか鈴音のネタ帳に興味があるのか知らないが、こっちに寄ってくる優奈。


「ダメだ! 見るな!」


「なんでよ!」


 なんでって……これお前やリサが見たら絶対またグロッキーになるだろ。

 俺はノート持った手を高く上げ、優奈が取れないようにする。

 優奈は俺よりも背が小さいため、この高さでは取ることができない。

 これで一安心か……。


「いいではないか。優奈にも見せてあげれば」「あ……!」


 優奈よりも背が高い鈴音は、背伸びをするとノートに軽く手が届いてしまった。

 そしてノートを俺から取り上げると、それを机の上に思い切り広げる鈴音。

 さらにそのノートをガン見する優奈。

 ……お、終わった……。


「ゆ、優奈……大丈夫か?」


「…………」


「お、おーい」


 あ、これはもう、きっと三途の川に行ってるな。

 目が虚ろだ。


「このバカが!」


 そう言って平手で鈴音の頭を軽く叩く俺。


「痛いじゃないか! だがそれがいい!」


「お前何やってるんだよ。優奈にあんなもの見せたらこうなるに決まってるだろうが」


「うむ。分かってはいたが、面白そうでな」


「面白そうで人を三途の川に行かせるなよ……」


「ついやっちゃうんだ☆」


「やるな。てか古いぞそれ」


 そう言いながら机の上にある鈴音のネタ帳を改めて見る俺。

 よくもまぁ、こんなものが出来上がるよな……。

 ある意味才能を感じる。


 起…主人公とヒロインが出会ったのでとりあえずレイプ。最初は至って普通の脱がせてバック責めで、ヒロインが恍惚の表情を見せると同時に主人公は……以下略。


 承…主人公とヒロインに恋心が芽生えたのでとりあえずレイプ。脱がせてバック責めはもちろん、多人数でヒロイン一人をひたすらレイプ。アナルファックや……以下略。


 転…ヒロインの裏切りが発覚したのでとりあえずレイプ。その際、主人公はS、ヒロインはMに目覚め、主人公にSM調教をされたヒロインは、亀甲縛り、吊るし、ロウソク、バイブ責め……以下略。


 結…ヒロインが主人公のペットと化したので毎日のようにレイプ。そのうちに客まで招くようになり、乱行パーティに発展。その内容は極めてハードで、これまでヒロインにしてきたことはもちろん、一日中ヒロインは精液にまみれ……以下略。


「これのどこが異能力バトルだ!終始同じシーンじゃねぇか!」


「貴様は何を読んだのだ?ちゃんと詳しくプレイ内容が書いてあるじゃないか。初めから終わりまで、きちんと違うプレイだぞ? そして、異能力を使ってヤらせるという私の斬新なアイデアだ。どうだ?」


「没」


「即答か⁉ 何故だ⁉」


「何故だ⁉ じゃねぇよ! バカなのか⁉ お前は! これじゃ全然ストーリーとか関係なしになってるし、第一内容がダメすぎる!」


「うーむ……完璧な異能力バトルものだと思ったのだがな……」


「このネタ帳からなぜそんな意見が飛び出してくるのか俺には理解できん」


 はぁ……鈴音のことだからまさかとは思ったが、的中するとはな……。

 今度ちゃんとした異能力バトルの書き方を教えてやろう。

 俺自身書いたことないけど。


「優也、あえて聞かないようにしてたんだけど、鈴音の小説って……」


「優奈を見れば分かるだろ? お前もそういう話苦手なんだから、聞かないほうがいい」


 少し動揺気味のリサをなだめ、深呼吸する俺。


「とにかく鈴音、これ全部書き直しだ。メンバー全員が読める、エロ要素は無しにした健全で面白い小説を書いてくれ」


「むぅ……少し納得がいかないが、優也がそう言うのなら……」


「はぁ……頼むぜまったく」


 鈴音に比べたら早川の、残念ロミオとブラックジュリエットがまだいい話に思える。

 で、その早川はというと、


「…………」


 イヤホンを耳につけ、音楽を聴きながら作業を進めていた。

 うん、その判断、間違ってなかったよ。


「優也、次はアタシのも見て」


「……変な話じゃないだろうな」


「初めてだから分かんないけど、二人よりはマシだと思ってるわ」


「そうか。ならいいんだけど」


 リサのネタ帳が心のオアシスになることを望みつつ、俺は鈴音から離れた。

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