現代文章構成部、始動!
1 感想
「さて、今日から本格的に現代文章構成部としての活動を始めるわ」
初めて入った時と打って変わって、ほとんど何もない広々とした空間となった俺たちの部室に、優奈のやる気に満ちた声が響き渡った。
「優也、ちゃんとパソコンは持ってきてる?」
「あぁ。持ってる」
俺はカバンから薄型のノートパソコンを取り出す。
ちなみにこのパソコンは、俺が小説を書き始めた頃⋯⋯つまり中二の夏から約約二年間お世話になってる愛機だ。
昨日の帰り道、優菜に「明日から早速二人で作業を始めたいからパソコン持ってきて」と言われたから今日こうして持ってきてるワケなのだが、一応学校として不要物の扱いになるので見つかったら問答無用で取り上げられるだろう。
本当、見つからなくてよかった……。
見つかってたら優奈のやつ、一生恨んでやる。
「ほー、壁紙はwindowsのロゴのままなのか」
「なんか、優也さんらしいと言えばらいですね」
電源をつけた俺のパソコンのデスクトップ画面を見た早川と鈴音が口々に言った。
「うるせぇ。個人的に気に入ってるんだよ。この旗っぽいwindowsのロゴが」
「私としてはてっきりアニメ感満載の壁紙と思ったのだが」
「正直アタシも同じことを思ったわ。優也ってアニメのキャラに向かって『俺の嫁』とか言ってそうじゃない?」
「お前ら一体俺をどういう目で見てるんだよ」
「そういう目だ。ちなみに私のパソコンの壁紙は知り合いの絵師さんに描いてもらった完全十八禁のイラストだ。メアドを教えて貰えば優也のパソコンにも送信しておくが、どうする?」
「悪いが微塵も興味がない」
鈴音を軽くあしらい、軽くパソコンを操作して『小説どっとこむ』での俺、『yu―ya』のマイページを開く。
「そういえば私、優也さんの小説、読んだことないです」
「あ、アタシも」
「無論、私もだ」
そう言いながら早川、リサ、鈴音の三人が俺のパソコンの画面を覗き込む。
「今見せてもらえばいいじゃない。優也も別にいいでしょ?」
「俺は別にいいけど……笑うなよ?」
「笑いません」「笑わないわ」「笑うものか」
「よし……それなら」
俺は『Re:Friend』のページを開き、三人に見せた。
☆
「……ど、どうだった?」
とりあえず三十話まで読み終えた三人に感想を問う俺。
1話あたり三千~四千文字くらいのボリュームなので、そのくらいなら実際一時間くらいで読むことができる。
正直、自分で書いた小説を知り合いにまじまじと読まれるのは、なかなかに恥ずかしいことで、俺は軽く冷や汗をかいていた。
「面白かったわよ」
最初に感想を述べたのはリサだった。
「正統派ラブコメディね。笑いあり友情あり涙ありで、アンタが書いてるなんて信じられないくらいのクオリティだったわ」
「それは褒めてるのか?」
「当然よ」
そうか……?
俺ってそんな文章力とか無さそうな見えるのかな。
ちょっとショック。
「私はこういったライトノベル風の小説はあまり読まないのですが、とても良かったと思います」
「そうか。ありがとな早川」
早川はクラスでいつも読書ばかりしているが、読んでいる本は純文学。
ジャンルが全く違う俺の小説を読んで、かつ褒めてくれて、俺はすごく嬉しかった。
しかし、続いて早川は、
「ただ、ヒロイン……というか主人公の周りの女子生徒がもれなく美少女というのが少し気になりました。もっと現実を見るべきです」
と、世の中全てのライトノベルを否定するようなことを言い放った。
「ライトノベルってのはそういうものなんだよ。俺の読んだライトノベルの女キャラクターは、みんな『美少女』とか、『美人』って表現がされてた」
「パクリですか」
「リスペクトと言ってくれ」
どんな人間にも、きっと憧れる人や尊敬する人の一人や二人はいると思う。
俺の場合はそれがあの時本屋で試し読みしたライトノベルの作者だった。
その人の表現、手法、行間明けに至るまで俺は敬意をこめてリスペクトしているのだ。
「まぁ、私も悪くはない作品だと思う」
「なんだよその言い方」
鈴音の口から唐突に放たれた言葉には、どこか不満がありそうな意が込められていた。
おそらく今俺の小説を読んだ三人の中だと一番ライトノベルを知ってるのは鈴音だろう。
辛口覚悟だな。
「少し気になるところがあってな……」
鈴音はパソコンを操作し、『Re:Friend』の二十六話のページに飛んだ。
二十六話っていうと、主人公とヒロインが初めて二人で出かけるシーンだな。
あの話は個人的にちゃんと書けてる気がしてたんだけど……何を言われるんだ?
「主人公がヒロインの私服を初めて見てその新鮮さに顔を赤らめるシーンなのだが……」
「その部分がどうかしたか?」
ヒロインの私服に感動する主人公の心情がちゃんと書けてるじゃないか。
「願望か?」
「違えよ!」
「本当か? 恐らくこの部分を書いていた時の貴様は、クラスの女子の私服が見たくて仕方がなかったのだろう。そしてそのまま着衣プレイの妄想を膨らまし」
「黙れクソ」
「ふはは、冗談だ。私が本当に気になったのは、一部分ではなく、この物語全体を通してだ」
「なんだよ」
「まぁこれは私の思い過ごしかもしれんが、違うなら違うで聞き流しておいてほしい」
「おう」
鈴音は、少し真面目な顔になり、
「この話、もしや優也の実体験が元になっているのではないか?」
鈴音のこの言葉は、盛り上がっていた場の空気を変えさせるのに、十分な効力を持っていた。
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