3 宮原鈴音

「おい」


「なんだ?」


「なぜ俺についてくる?」


「なぜって……愚問だな。たまたま貴様と帰り道が同じで、私はアドアネス高校の女子寮に向かっているだけだ」


「すまん、俺の質問が悪かったな。それなら質問を変えよう。どうして俺にくっつく?」


 通学路の歩道にて。

 そこには、宮原が俺の腕に抱きつきながら歩いているという、側から見たら「うわ〜バカップル乙〜」とか、「リア充は死ね!」と思われてしまってもおかしくない光景が広がっていた。

 俺からしたら、いわゆる地獄である。

 リサほどではないが高校生としては申し分ないほどの膨らみを感じる胸の感触と、宮原の髪の毛から漂ってくる女子特有のいい匂いが、俺の精神を苦しめているのを感じる。

 興奮したら負けと既に心の中で何回唱えたか分からない。


「まぁ、良いではないか。誰かに見られても別に損害は無いだろう?」


「悪いけどそう思ってるのはお前だけだから! 誰かに見られて変な噂立てられたりでもしたら困るから損害ありまくりだから!」


「何もそんな呼吸をするように否定しなくてもいいと思うが……興奮でもしたか?」


「す、するわけあるか‼」


 こっちは全力で我慢してんだよ!


「全力で否定するところがまた怪しい。どれ、精巣爆裂ボーイになっているかどうか、私が少しチェックしてやろうか」


 そう言いながら片手を俺の股間に伸ばしてくる宮原(この間も現在進行形で腕にはしっかり抱きついている)。

 ん? 俺の股間に手を伸ばす?


「ち、ちょっと待てぃ‼」


 俺はとっさの判断力と持ち前のキレる動きで宮原の腕を掴み、制止する。

 あっぶね〜……あまりの出来事に俺の脳がフリーズしやがった。

 頼むからこんな時に動作停止すんなよ……。

 条件反射という名の予備電源が起動しなかったら高校生として、超えてはいけない一線を超えるところだったぞ……。


「なんだつまらん。私の愛読書ではこんなの序の口だぞ。ここからハッテンしていくというのに……」


「お前普段どんな本読んでんだよ」


「そうだな。例えば、『お兄ちゃんのお◯◯ぽみるく!』とか、『異世界に転生したので人外たちと◯◯△△します!』とか、あと『精剣レジェンド』は名作だな。それに」


「も、もういい。お前がそっち系の人間だということはよく分かったから」


「そっち系とは失礼な。エロは人間の真髄だ。エロがあるから人間は子孫を残し、家族を育み、進化することができたと言っても過言ではない!」


「目を輝かせながらそんなくだらん宣言をするんじゃねぇ!」


「しかし優也よ、人間の進化の過程において、私の言っていることはあながち間違っていないとは思わないか?」


「そりゃまぁ、そうだけれども」


 宮原の言葉に素直に同意する俺。

 因みに宮原はこんなくだらんことを言いながらも、俺の腕にしっかりくっついていた。

 いい加減離していただきたい。


「分かってくれるか⁉」


「お前に共感するのはなんか嫌だけど、そこについては言ってることが分からんでもない」


 ついでに言うなら、そういう系は小説でも結構笑いが取れたりする。

 俺も『Re:Friend』に時々盛り込んだりするからな。


「そうか⋯⋯それなら、私と一回、やってみてはみないか?」


「何をだ?」


 顔を赤らめながらハァハァ言ってる感じがちょっとキモいのだが?


「子作りの儀式」


「断る」


「即答か!?何故だ⁉ 私ではいけないのか⁉」


「『何故だ⁉』じゃねぇだろ! 高校生としてやっちゃいけない行為だろうがそれは!」


「なんということだ……そうか……そうなんだな……今はダメなんだな」


 おいこら、どうしてそんなに絶望した顔をする?

 むしろOKされるとでも思ってたのか?


「そ、そうだ……分かったか?」


「と、言うことは高校を卒業したらいいんだな」


「……は?」


「そうだ、高校生としてやってはいけないのなら、卒業をしてからやればいい」


 み、宮原さん?

 何を言ってらっしゃるのですか?


「おい、お前何言って」


「入学してから早一週間以上。高校生活とはここまでつまらないものなのかと絶望し、ここのところ辞めてやろうかと思い始めていたところだが、卒業してからそんなイベントが待ち受けているのならしょうがない! 突破してやるぞ! 高校生活という地獄のような試練を!」


「とんでもないこと言うんじゃねぇ! だいたい、俺とお前は知り合ってから数分しか」


「マズイぞ私は興奮してしまった! 早く寮に帰って三角で木製の馬のお世話にならないと壊れてしまいそうだ。と、いうわけで先に帰らせてもらう。さらばだ‼」


「頼むから話を聞いてくれー‼」


 宮原はとんでもないことを宣言すると、ずっと抱きついていた俺の腕を離し、風のように走り抜けて行った。

 変態だけど足速えー……。

 しかし、優奈の時といい今回といい、俺は女子と二人きりになると取り残される運命にあるのか?

 結局なんだかんだでその日の夜、俺は寝るまであの匂いと胸の感触を忘れ去ることはできなかった。


          ☆


 翌日の放課後。

 三人で部室の片付けをしていると、部室のドアが開いた。

 見るとそこに立っていたのは、高い位置で縛った綺麗な茶髪のポニーテールが特徴の美少女。

 つまらない高校生活に呆れ、学校を辞めようと考えている変態だけど足が速いその女子生徒の名は……


「お、いたな優也。貴様がここにいるということを聞きつけたから来てやった。感謝しろ」


 み……宮原……鈴音……。


「優也、誰なの?」


「アンタの知り合い?」


 不思議そうに俺を見る優奈とリサ。


「いや……知り合いっつーかなんつーか……」


 俺が頭の後ろをぽりぽり掻きながら返答に困っていると、


「私の名前は宮原鈴音。そこにいる中川優也のフィアンセだ」


 この変態はとんでもないことを言いやがりました。

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