第26話 初任務
アリアは目覚めがいい方だ。記憶にある限りでは寝坊したことがない。
目覚ましをセットしていなくても7時には目が覚めてしまう。それも欠伸も無しにキッパリと。
そんな少女が珍しく謎の息苦しさを感じて目を覚ました。
「…?」
目の前は真っ暗だった。柔らかい何かに視界を塞がれている。
それにこの匂い─
「……お酒…?」
まだ慣れない匂いに眉をひそめたアリアが、少し身体をずらすと視界を塞いでいたものの正体が分かった。
それはバスローブからわずかに覗く自分より豊かなバスト、そして何より少女を驚愕させたのはその持ち主である。
「わっ……キャアッ!」
その正体に気づいた少女がベッドから転がり落ち、小さな悲鳴を上げた。
「…んん?」
悲鳴か、転落音か、どちらかを聞き取ったであろう相手がどこか不機嫌そうな呻き声をあげ、
「っ〜〜」
頭を押さえながら起き上がったアリアも相手を再確認する。そして呟く。
「何してるんですか、ガブリエラ様……」
「何をしている……か、寝ていただけなのだが?」
「………」
至極真面目に答えられて咄嗟に言葉が出ないアリア。
一方でミューラは未だ、ガブリエラの背後で眠っている。この先輩は本当に朝が弱いようだ。
「ここ、私が頂いた部屋なんですけど、ご存知ですか?」
「知っている。私が見ず知らずの人間のベッドに潜り込むとでも思っているのか?」
ベッドに座ったガブリエラは品定めするような鋭い目つきでアリアを見つめていた。
「住人に無許可で入り込むのもダメです」
「ほぅ」
ガブリエラの瞳に好奇の色が灯る。
「これでも上級大将のつもりなのだが……随分と強気だな?」
「そ、それとこれとは別です!仕事とプライベートは分ける派なので」
「そうか」
毒気を抜かれたように目を見開いた美女は、自然な動きでアリアの頬に手を伸ばした。艶やかに濡れる唇から言葉がもれた。
「お前、ちょっと単身赴任してみるか?」
「……へ」
「せっかくの女、それも特異クラスだ。ゆくゆくはわたしの
未だ話の飲み込めないアリアをよそに、ガブリエラは続けた。
頬を触っていた手は、今では耳を触っている。
「少々癖が強いやつが多いが、女のみを集めている。──どうだ?興味が湧いたか」
ようやく、少女に発言権が与えられる。アリアも段々と整理され始めた思考をもとに口を開いた。
「えと──まず単身赴任とは?」
「ああ、少し大袈裟だったか?実際は2時間もかからん。
「?、普通に山林だったと思います」
「そうだ、あのあたりは
「東方の、ですか」
まず1番にアリアの頭に浮かんだのは総統府の大浴場だ。
あの雰囲気は確か東方が由来とミューラから聞いたことがある。
「そこで半年、出来が良ければそれ以下。土御門家のサムライクラスの技能と一般的な対人戦を学んでこい。戻ってきたら中尉に昇進させてやる。──どうだ?行くか?」
告げられた初任務に少女はさほど迷うことなく応えた。
「そうですね───わかりました。受けます」
ガブリエラがふっ、と頬を緩ませる。
「思いの外迷わなかったな、いいのか?断ってもいいぞ」
「いえ、なんなら少し楽しみですから」
「ほぅ、やはり面白い。なら出発は明日にしておこう。日用品は向こうにあるだろうから手ぶらでもいいぞ」
「はい!拝命いたしました!」
床に正座してすくっ、と姿勢を正すアリアの頭をガブリエラはクシャクシャと撫でた。
「さて…」
クルリと振り向いたガブリエラはまだ夢の中だったミューラの頬をつねる。
「むぎゅ」
年頃の乙女らしからぬうめき声がその口から漏れ、薄く目が開かれる。
「……?…ガブリエラ様?」
アリアと同様、状況が飲み込めないミューラがトロン、とした瞳を上官にむける。
「いつになっても寝起きが悪いのは変わらんな」
「ハハ、すみません」
(ガブリエラ様ってよく不法侵入してるみたい)
特になんの反応も示さなかったミューラを見てアリアはそう結論付けた。勿論、憶測でしかないが。
「土御門のところに行くそうだぞ」
「……そう、ですか…」
ミューラの表情が僅かに
「…アリアちゃん、ちょっとこっちおいで」
「?」
意図が理解できなかったアリアがベッドを迂回して前に来ると、ミューラはその腕に少女を抱いた。
「うぅ〜〜。寂しくなるよ〜っ」
「ちょっ、先輩!?」
「わたしも出来るだけ会いに行くけど、寂しくなったら帰ってきていいからね?
あと、土御門の人達はみんないい人ばかりだから安心して。
それと嫌なことは嫌って言うんだよ?あと──」
「せ、先輩。苦しいです」
「あ、ごめんなさい」
アリアの言葉でようやく抱擁を解いた桃髪の少女は名残惜しげにアリアの赤髪を撫でた。
「─っとにかく、送り迎えは私がついて行くから!
寂しくなったら帰ってくるなり、電話するなりしてね。出来るだけすぐに行ってあげるから。わかった?」
母親のようなことを言うミューラを見てアリアは心がじんわりと温かくなった。
自分をこんなにも気に入ってくれているのか、と。
同時になんとも言えない寂しさにも襲われた。
(先輩と離れたくはない───けど、いつまでも甘えていられないよね。)
ミューラと肩を並べられる高みへ。
確かな決意を胸にアリアは応える。
「はい!わかりました」
エデン〜人類最後の島〜 三華月 @siroikogitune
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。エデン〜人類最後の島〜の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます