第16話 エデン大会議

「───以上が上位階級クラスを含めた全13クラスの能力です。一気に説明してしまいましたが、大丈夫ですか?」

「はひぃ、何とかぁ…うぅ」


 一度に13の階級クラスの情報を叩き込まれたアリアは目を回しながらも、今聞いた情報を整理していた。


「百聞は一見に如かず、という言葉もあります。実際に私と手合わせしましょうか?」


 ミューラが戻るまでアリアを自由にしていい、と言われているリーシャが、そんな提案を持ちかける。

 いつものアリアならリーシャの顔に浮かぶ微笑に気づき、丁重に断っただろうが今のアリアにそんな冷静さを求めるのは不可能だった。


「は、はいぃ」


 そんな間抜けな返事を皮切りに、リーシャとの特別講義が開始されたのだ。





【総統府27階 大会議場】

「──私からの報告は以上です。」


 ミューラはつい先日起きた新兵への悪質な嫌がらせと、脱走騒ぎの顛末をそう締めくくった。


「ではクラミツハがあの薬の出所、という可能性が高いのか?」

「いや、可能性ではなく確定でしょうな」

「なんと!」


 再びざわつき始める大会議場、そんな中ルーサーが静かに手を上げ、場を沈める。


「みんな聞いてくれるかい?グリアモール中佐の証言の通り、例の薬がマナ能力者にまで出回ってしまっている。勿論、薬の効果に個人差は有るだろうが常人では対処出来ない。下手をすれば鍛えられた軍人でも、

そこで提案なんだが、今回の件はマナ能力者コチラに任せてくれないだろうか?」


 なんの気合いもなくそう言い放つルーサー。友達にするように口調でも誰も責めることがない、それが彼のカリスマ、若くして元帥にまで上り詰めた所以だった。

 が、しかし、作戦内容には口を出す人間がいる。


「それは我々が足手まといと言うことか?」


 ミニッツ元帥が再び気色ばむ。


「そうじゃない、何処にでも適材適所というものが──」

「それが足手まといと言うことであろう!」


 ルーサーが取り繕うが他の元帥たちも殺気立ち始める。

 便宜上、対等の組織なので魔導師達が独断で進めるわけにはいかないのだ。




 どうしたものか、とルーサーが悩んでいると、ルーサーの隣に座っていた女性がおもむろに発言する。


「ならば、お前達がやればいいだろう?そして部隊が壊滅してから私達に泣きついてくればいい、私は止めない」


 今まで沈黙を守ってきた魔導軍上級大将、ガブリエラ=シュルベルクが凄まじい重圧プレッシャーと共に言い放ったのだ。


「…っ!?」


 数々の修羅場を潜り抜けてきた筈の上級将兵達が、気圧されて黙り込む。

 そして気づく、エデン最強と名高いガブリエラ=シュルベルクが暗に言ったのだ、「失敗するぞ」と。


「部隊は少数精鋭でエデンに近いクラミツハの拠点から制圧していく。エデンの防衛力には微塵も影響がない」


 ガブリエラが巻き起こした重い空気を払うようにルーサーが説明を開始する。


「1ついいですかな?」

「どうぞ」


 質問したのは驚いたことに商業ギルドの長だ。


「少数精鋭と言っても第4戦域以上の顔はあちらに割れていましょう。どうするおつもりですか?」


 軍人でもない男の、余りにも的確な指摘にミニッツ他数名が眉を潜めるなか、ルーサーは顔色一つ変えずに答える。


「第5戦域の中でも上位のメンバーで行こうと思う。いざとなったら増援も──」

「成る程。いや、失礼しましたな。少し気になりまして」


 アッサリと引き下がる商業ギルド長。そんな様子を気にもせず、ルーサーは話の続きを話し始めた。





【総統府エレベーター】

「あの、本当に私なんかの為に貴重な時間を使ってもらっていいんですか?」


 総統府の地下3階にある訓練場に向かう道中、アリアはずっと考えていた疑問を口にする。

 隣に立つリーシャはアリアの言葉を聞き、驚いたように振り返りアリアを見つめた。

 てっきり「また今度にしませんか?」と聞かれると思っていたのだ。そして、気付く、「嗚呼、自分に似ているな」と。

 アリアの赤い瞳に映るのは、微かな不安と圧倒的な好奇心、という純粋な思い。


「私、──」


 リーシャは一瞬、言うかどうか迷って口を開く。


「私も、若い頃は他階級クラスとの試合を生き甲斐としていました。だから、アリア様が気負われることは何もないのです。むしろ感謝したいぐらいですよ?」


 柔らかく微笑んで見せる。それを映した少女の赤い目には不安が失せ、好奇心一色になっていた。





「なら、失望はさせられませんね」


 そして少女は噛み締めるようにそう呟いた。

 

 

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