第15話 エデンを蝕むもの

「まさかリーシャさんが大佐だったなんて、」

「これでもお嬢様の教育係を任されておりましたのです!腕には多少の覚えがあります」


 総統府30階にある大浴場の脱衣所で、アリアは髪を乾かしながらリーシャと会話していた。

 まだ時間が早いからか他の利用者は居ない。


「そう言えば私、リーシャさんの階級クラス存じないです!お聞きしてもいいですか?」


 通常、他人に階級を聞くのはタブーとされているため、慎重に言葉を選ぶアリア。


「そんなに気を使われないでいいですよ?私の階級は剣士フェンサーです!」


 そんなアリアの読みは杞憂だったようだ。

 リーシャは右手を胸に当てながら誇らしげに答えた。


剣士フェンサー……獣使いテイマーでは無いんですね」

「お嬢様はあの戦い方を私がお嬢様と初めてお会いした10年前から実践していらっしゃいました。私は僅かばかりの護身術をお教えさせて頂いただけです」


 アリアの心中をしっかりと読んで答えるリーシャ。ミューラの戦闘スタイルからしてアリアの考えは真っ当なものに思えた。しかし、それはミューラ以外の創造者デミウルゴスを見たことがないから故の疑問であった。





「まず、本来の創造者の階級クラスを持つ方々の戦い方から説明しましょうか」


 ミューラは会議で昼まで帰らないと言うことなので、アリアはリーシャから講義を受けることにした。


「お願いします!」

「では……まず、第一に。」


 前置きとして語られたリーシャの言葉にアリアは目を見開く。


「…へ?そうなんですか?」

「アリア様は魔導師の常識に疎くていらっしゃいます。もう少し学ばれた方が良いかと」

「うぐっ…!わ、わかりました」


 リーシャの指摘に息を詰まらせ、それから一瞬間を開けて。


「……教えていただけますか?」


 そう付け足すアリアであった。

 リーシャの返答はもちろん


「ええ、喜んで!」

 

 



【総統府27階 大会議場】

 アリアがお風呂から戻り、グリアモール家の別邸でリーシャから講義を受けているその頃、ミューラはその5階下、大会議場にいた。

 約30メートル四方の部屋の中央には大きな円卓があり、そこを魔導師、海軍、その他各方面のトップが囲んでいる。 

 ミューラとオスカーは、壁際に寄せられた椅子に座って円卓のメンバーを眺めていた。

 議題は…



 

 犯罪組織"闇御津羽神クラミツハ"、そしてエデンに流通し始めたある薬について




「殲滅一択だ!」


 円卓の1人、海軍元帥レイモンド=ミニッツが円卓に拳を叩きつけながら声を荒らげる。


「それは分かっているよ、ミニッツ元帥。

だが、戦力をさきすぎるとセントラル、否エデンそのものの防衛力が大幅に下がってしまう。かといって生半可な戦力じゃ返り討ちにあってしまう。そうだろ?みんな?」


 興奮気味のミニッツに諭すように語りかけたのは魔導元帥ルーサー=ロイエンタールだ。

 元帥でありながらも円卓に座るメンバーの中で1,2を争う若さのルーサーは親子も同然の年齢差をものともせず不敵に笑う。


「むぅ、しかしだなこれ以上放置しておくとろくな事にならんだろ!」

「その意見には私も同意する」

「私もだ。最近はあのの事もあるし、面倒な種は摘んでおくのがよかろうて」


 ミニッツの発言に陸軍元帥、海軍元帥の2名が同意する。

 その一方で「薬」と聞いた途端に商業ギルド長が「ひぃ」と声を上げ、青ざめる。商業を取り仕切る役柄、そんな物が出回っているのに責任を感じているのだろう。




 客観的に見ると面白いなぁ、そんな円卓の様子を後ろから見守るミューラはふと思う。

 ミューラの横には学者然とした男オスカーが腰を下ろしていた。2人は今回の会議である証言をする事になっているのだ。

 目の前で繰り広げられる不毛な会話にオスカーが痺れを切らす。


「ロイエンタール元帥も魔導師コッチで処理しようと考えていらっしゃるだろうに、あんな老兵達の言葉なぞ…む?むむぅ」


 聞こえてしまったら注意では済まないオスカー発言をミューラが口を押さえる事で止める。


「何をする!事実だろ?」


 ミューラの手を払い除けながら不思議でしょうがないといった表情を浮かべるオスカー。

 事実なので黙るしかないミューラ。

 そうこうしているうちに会議は進む。そして、





「ミューラ=グリアモール中佐、オスカーステファノ少佐、両名は前へ!」


 会議も終盤に差し掛かり2人の出番が来たのだ。


「「はっ!」」


 2人は堂々とした足並みで円卓の南側、唯一椅子が置かれていない位置に進む。


「まず、ステファノ少佐、薬についての説明を」


 魔導元帥ルーサー=ロイエンタールに促され、オスカーが一歩前に出る。

 北側に座ったルーサーが合図すると円卓の中央にホログラムが展開される。

 沢山の化学式や構造式、組成式が浮かび上がった。


「これは今エデン中に流通している例の薬の解析結果です。この薬は強い依存性を持っており、人の力を限界まで引き上げる効果があると考えています」


 なんの前置きもなく話を始めるのが、実に彼らしい。

 会場が徐々にざわつき始める。


「現在、開発部で用意した解毒薬は一度に少量しか作り出せない為、新しい物を研究中です。…以上です」


 必要最低限のことを報告したオスカーは一歩下がる。




 未だザワ付きがおさまらない中、ルーサーが口を開く。


「次にミューラ=グリアモール中佐、報告を」

 オスカーに続いて一歩前に出たミューラは右の前髪をかき上げ耳にかける。

 ゆっくりと、静かに深呼吸をし第一声を発する。





「私は先日使。」



 

 

 

 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る