第14話 想い 

「お疲れ様!


 訓練を終え、アリアたち3人組の元にやって来たガウェインに対して、エメラルダが何処からか取り出したペットボトルを差し出す。

 アナタ⁉︎、とエメラルダとガウェインを交互に見つめるアリアと、エメラルダの態度の変わり様に頭を抱えるミューラ。2人がそれぞれの態度を示す中、ガウェインが口を開く。


「ああ!我が美しきエメラルダ!見ていてくれたかい?」


 キラン、と音がしそうなほどに真っ白な歯を見せて笑うガウェイン。

 考えていた人物像と余りにもかけ離れたガウェインの姿にアリアは目が点になる。

 しかし、続いて歩いてきた人物を見てアリアは慌てて席を立つ。


「よ、良かったら座ってください!」


 ジークフリートである。訓練終わりで火照ったからだにタオルを当てたジークフリートは軽く手をあげて応える。


「アリアだったか?ありがと」


 ジークフリートはゆっくりと腰を下ろし、控えめにマナを解放する。聖騎士パラディンのマナが癒しきれていなかった傷を癒し始める。 


「しっかし、1発も攻撃が当たらないのは悔しいなぁ。義姉様達も見てたってのに…」


 ジークフリートが頭を掻きながら悔しそうに呟く。


「いえ、とても凄かったと思います!」

「そうだぞ、弟よ。お前の戦い方は美しくなってきている。そう、わたしのようにな!」


 アリアは何故が顔を真っ赤にして褒め、ガウェインがファッサ、と髪をかき上げながら呟く。

 ナルシストってやつなのかな、アリアが内心そうな事を考えていると、ミューラが耐えかねたように机を叩く。


「あの!その喋り方何とかならないんですか?」


 かろうじて敬語ではあるが、尊敬1割、軽蔑9割といった感じだ。


「おお、ミューラよ!お前は中佐に昇進したんだって?その歳でよくやるものだ!この美しいわたしも誇らしいよ!」


 聞いてないな、ガウェインのいつも通りの自惚れっぷりに、ミューラはいつものように説得を諦める。実のところこのやり取り、2人が合うと必ずと言っていいほど発生するのだ。

 エメラルダとジークフリートも分かっているからこその傍観である。





「カッコいいでしょ!あの人」


 ガウェインが会議とやらで呼び出され、ジークフリートもパーシヴァルに呼び出された事で、再び女子3人になった瞬間、エメラルダが呟いた一言だ。

 相変わらずのバカップルよね、ミューラのそんな心中を知らずにエメラルダは話を続ける。


「あの人、凄く強いでしょ?私初めて見た時一目惚れしちゃって!それからね………」





「すっかり夜になっちゃいましたね」


 アルファイド家の本邸を出て、大きくため息をついたアリアは隣を歩く歳上の女性に呟いた。勿論ミューラである。


「まさか1時間も自慢話をされるとはね…」


 すっかり元気をなくした様子のミューラもため息をつく。


「でもアリアちゃんは収穫あったでしょ?」

「へっ?い、いや私は別に」


 ミューラの言葉に、アリアの顔がみるみる赤くなる。図星である。


「ジークフリート君と交換したんでしょ?連絡先」

「そそそ、それはヒーリングのアドバイスを聞こうと…」


 アリアは、冷静に、極めて冷静に答える。


「その大事そうに抱えてる端末はなーにーかーなー?」


 ここぞとばかりにアリアに迫るミューラ。アリア右手で胸元に抱えていた端末をさっ、と背中に回す。

 耳まで真っ赤になったアリアを見て、ミューラは薄く微笑む。自分にもそんな人が居れば、と。

 ふと、ミューラ脳裏に1人の男の顔が浮かぶ。が、ミューラはアリアに気付かれないように、静かに深呼吸し、火照りにも似たその感情を抑え込んだ。


「アリアちゃんとジークフリート君が結婚なんてことになったら、親戚だね!アリアちゃん!」

「へっ?なな、ちょ」


 アリアの顔で感情が爆発し、意識が遠のいていく。目を回したアリアはその場で倒れ込み、ミューラはそれを慌てて支えた。


「ちょ、ア、アリアちゃん⁉︎」


 ミューラが、自分の言葉のせいで意識を失ったアリアを総統府まで運び込んだのは言うまでもない。





 暖かい日差しが顔にあたる。薄く目を開けると、天井が見える。前回目を覚ました時に見た天井。グリアモール家別邸の天井のような……


「!」


 そこまで考えてアリアの意識は完全に覚醒する。

 布団をはね除け、ベッドから跳ね起きる。

 間違いない、総統府にあるグリアモール家の別邸だ。


「…そういえば私、昨日ここで寝たっけ?」


 アリアの独り言が、他に誰もいない部屋で虚しく響いた。




「お目覚めですか?アリア様。今お飲み物を用意しますのでお座りになってお待ち下さい」


 服装を整え─何故か軍服のままだった─ベッドから下りたアリアが部屋から出ると、キッチンからリーシャの声が聞こえた。


「おはようございます。リーシャさん」

「私のことは呼び捨てでいいと言ったはずですよ」

「じゃあ私のことも呼び捨てでお願いします」

「申し訳ありませんが、それは出来ません」


 即座に反対され、黙ってしまうアリア。

 そんなアリアに構わず、リーシャが発言する。


「昨日は倒れられたとお嬢様から伺っております。ゆっくりなさって下さい」


 倒れた、と聞いて、記憶を辿り始めるアリア。そして何が起きたかを思い出した。アリアの顔で再び感情が爆発する。

 アリアが再び目を回しそうになる中、コツ、と目の前にティーカップが置かれた。満たされているのは紅茶である。


「あ、ありがとうございます!」


 脈拍を懸命に戻しながら、一口すする。


「……おいしい!」


 今まで飲んできた紅茶とは違う味わいに思わず声を上げるアリア。

 リーシャは一瞬、当然とばかりにドヤ顔を見せたが、即座に万能メイドに戻ってしまう。

 そんなリーシャを観察しながら紅茶を飲むアリア。あまりの美味しさにすぐさま飲み切ってしまった。

 気持ちの整理がついたアリアは、最優先事項を考え始めた。

 すなわち、




「…お風呂…入りたい…」





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