第10話 平和な午前中
6:30のアラームで起床したアリアはミューラとの約束の時間-7時-までの間、勉強で時間を潰す事にした。
上位
やっぱり自分みたいな新兵には閲覧できないんだ
アリアがそう思った矢先
グリアモール家の施設内につきレベル4情報の閲覧が可能です。閲覧しますか? YES/NO
「え?」
思いもよらぬウィンドウ上の表示に、アリアは思わず首を傾げる。
確かにここはグリアモール家の施設内だが、部外者の自分が勝手に使っていい権限なのだろうか。
否、確認の必要があるだろう。
「先輩、起きてるかなぁ」
与えられた部屋の扉をゆっくりあけ、中央に大きな机のあるリビングに出る。
ミューラの部屋は机を挟んだ正面。
机を迂回して、ミューラの部屋の扉の前に立ったその時。カチャ、玄関の扉のノブが回る音がリビングに響いた。
続いてドカドカ、と沢山の人が部屋に入ってくる音。
「お嬢様!お嬢さ‥」
先頭でリビングに入ってきた女性とアリアの目が交差する。
「貴様!何者だ!!」
女性はアリアと目が合うなりマナを解放し、構える。
「あの、あの、えーと、」
次々と新たな人が部屋に入ってくる中、アリアの頭の中はパニックだった。
「賊が!グリモアール家の施設に侵入とは、恥を知れっ!捕えろ!」
女性の後ろにいた2人のスーツの男が銃を構えた。
あれは確か…
殺傷能力のない弾丸を相手に打ち込み、電撃を発生させ無力化する。マナを発現していない人間でも使用できるため、幅広い用途で利用されている。
2発の弾丸が同時に発射される。
「…っ」
ある程度距離があれば弾丸すら避けられるマナ覚醒者でも、至近距離からの弾丸はかわせない。
思わず両眼を閉じる。
ゴツ、硬いものと硬いものがぶつかる音が響き、続いてミューラの声がこだまする。
「うるさいなぁ、人が気持ちよく寝てるのにぃ!」
声から寝起きである事が窺える。
「す、すごい」
アリアは思わず声を上げる。
ミューラが無造作に開けた扉に電撃式拘束銃の弾丸が突き刺さっていたのだ。
まさか狙って?いや、そんなことより
「せ、先輩!出てきちゃダメです!」
アリアは部屋から出ようとするミューラを慌てて押し留める。
ミューラの着ている浴衣の前がはだけかけていたのだ。
「お前たち、外で待機していなさい」
女性もそれに気付き、後ろの男性達を下がらせる。ミューラの出現によりその場は一旦おさまった。
「それでお嬢様?こちらの方は、どちら様ですか?」
いつもの軍服姿に戻ったミューラに、女性が尋問を始める。
「ん?あぁ、前に話したでしょ?この子はアリアちゃん!私の後輩!」
「へぇーでは、こちらの方が」
そうすると、女性の態度が少し柔らかくなった。
「あ、あの!こちらの方は?」
「あぁ、これは申し遅れました。わたくしお嬢様の教育係でありましたリーシャと申します!以後お見知り置きを」
「教育係?」
「ええ、そうです!小さい頃のお嬢様は─」
「ストーップ!!この後も予定があるし話は朝ご飯食べながらにしない?」
ミューラがリーシャの言葉をかき消す。
リーシャは一瞬ミューラを見つめた後
「そうですね、朝食は私がお作り致しますので暫くお待ち下さい」
リーシャが席を立つ。
「あ、じゃあ私も」
アリアが手伝おうと席を立つが
「いいのいいの、あの人なんでも1人で完璧にこなせちゃう人だから!それよりガブリエラ様との約束だけどね?緊急の会議らしくて話はランチと一緒にどうだ、って、どうする?」
「私は大丈夫ですよ」
「じゃあ決まり!午前中はショッピング付き合ってよ!」
そんな話がしばらく続いた。
「あら、楽しそうですね?」
しばらくすると出来上がった朝食を運んできたリーシャが話に加わった。
「リーシャもどう?」
「ショッピングですか?─私は本邸に戻りますので」
「そっか、じゃあ私とアリアちゃんだけで」
「はい!先輩!」
「それはそうと!朝食はしっかりとって貰いますよ?」
「でもリーシャ、朝からこれは…ね?アリアちゃん」
ミューラが控えめにアリアを見る。何故ならリーシャが運んできたのはどこからどう見てもハンバーガーだったからだ。それも巨大な
「リーシャさん?一応、朝ご飯ですけど…」
「アリア様も育ち盛り、一杯食べてくださいね」
「ぜ、善処します…、それと呼び捨てでいいですよ?」
「いえ、お嬢様のご後輩という事なのでアリア様と、後、私のことは呼び捨てでよろしいですよ」
すぐさま否定するリーシャ。流石、良家の教育係、常識が違う、アリアがそう考えた瞬間であった。
「「いただきます!」」
朝食にしては少し重めのハンバーガーを頬張る。
「お、おいしい!」
「それは、良かった!お嬢様は食べないのですか?」
「ん、ちょっとね」
いつの間にかウィンドウを開いたミューラはその画面を神妙な表情で覗き込んでいた。
しばらく表示された文章を熟読したミューラは猛烈な勢いでハンバーガーを食べ始める。
「アリアちゃん食べ終わった?」
え、後から食べ始めた先輩に負けた!?
「は、はい!なんとか」
アリアは内心揺れ動きながらも答える。
「じゃあ出よう、今日はやる事が沢山あるんだよ!リーシャ悪いけど片付けお願いできる?」
「かしこまりました!」
「わ、私も手伝います!」
「アリア様はお嬢様についていてあげて下さい。あんなに楽しそうなお嬢様久々に見ましたから」
「じゃあお言葉に甘えて!すみません!」
「ええ、いってらっしゃいませ!」
総統府を出た私とミューラは沢山の商店が並ぶメインストリートを並んで歩いていた。
「まずは服だよね!」
ミューラは独り言と共に数ある店の1つに吸い込まれていった。
その店はどう考えてもアリアには縁がない店だった。一目で高級品と分かる品物の数々、その値札に並ぶ大量の0、恐らくアクセサリーの1つでさえ自分には手の届かない物だろう。
「すみませーん!この子に合う洋服見繕って下さーい!」
「えっ?先輩、今日は先輩のお買い物じゃ?」
「そんな事言っただけ?」
そういえば言ってなかった、つまりこれは
「いらっしゃいませー!さぁさぁこちらへ!」
罠だ!
2人の店員が飛び出してきてアリアを店の奥へと促す。
「お好きなカラーなどはございますか?」
「スカーチョなどどうでしょう?」
「はぁ、ス、スカーチョ?」
「店員さーん、出来る限り早くお願いします〜」
ダメだ、こういうところに来た経験がほとんどない
「あのー」
「お、おまかせで」
「かしこまりました〜」
数分後ようやく解放されることとなった私は画面に表示された値段を見て叫びそうになった。
「ぶ、分か─」
「一括でお願いします!」
横から身を乗り出したミューラがレジの機材に端末を翳す。一瞬で支払いが完了し、ミューラはこちらを振り向く。
「いいのいいの!昇格祝いだから受け取って!受け取って貰えないと逆に悲しいし」
どこかのスキンヘッドの上官が言っていたような事を言うミューラに思わずクスリ、と笑う。
「はい!ありがとうございます!」
「じゃあ、そろそろ時間だし行こっか、ガブリエラ様のところへ」
時間を確認する
【11:28】
「それは良いんですけど、この服で良いんですかね?」
今のアリアの服装はベージュのスカーチョに白のノースリーブ、上官に会う装いではない。
「別に良いと思うけど、気になるなら元の服に着替えておいで!その服は総統府の私宛に送ってもらって」
「分かりました、少しこの子をお願いできますか?」
「任せてよ!ほら、おいで!」
フードがなくなり、やむを得ず抱えていた子狐をミューラに託し、アリアは再び店に戻ることとなった。
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