第37話 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける

『先生、先生、戻らないでぇ。消えないでぇ…間に合って。まだ、伝えてない事があるんだから…。バタン、はぁ、はぁ、はぁ…』

『あぁ…どうした?大丈夫かぁ?』

『はぁ、はぁ、はぁ…。ふぅ…はぁ?どうした?大丈夫かぁ?あり得ないでしょ?』

『もしかしたら、怒っている?』

『そりゃ、そうでしょ?『逢いたい!』『過去に戻れる』って言われたら、『さようなら』を言っているようなものでしょ?『もう、逢えなくなるかも…って泣きながら走ってきたんだよぉ。』解る私の気持ち?』

『あぁ…ごめんねぇ…。』

『もう、バカ、バカ、バカ…。逢いたかった…。大好きだよぉ。』

『あぁ…ありがとう。俺も好きだよぉ。』

『でも、約束して…1人では過去に戻らないでぇ…一緒に行こうねぇ?』

『解ったよぉ。約束するよぉ。過去に戻る方法は後日、話すねぇ?』

『もちろん。今は私も冷静じゃないから…大和君?を探しに行きましょう?』

『そうだねぇ…。俺も記憶がないけど…大和に逢えば…思い出すかもなぁ…。』

『そうだねぇ。ほらぁ。』

『あぁ…、温かいなぁ…。久しぶりに手を握ってくれたねぇ?』

『懐かしいなぁ。この温もり…。』

『あぁ…着いたねぇ?桜木町駅だねぇ?確か、ランドマークタワーが見える方で路上ライブをしているらしいけど…』


あれじゃない?

『でも、見上〜げて〜ごらん〜♪目と目が〜見つめ合えば…』

『うわぁ…聞いてだれないぐらいにオンチだなぁ…はぁ〜。

おい!大和!腐った音程で『soul shout!』を歌ってるじゃねよぉ!『soul shout!』はこう歌んだよぉ!魂が入ってねんだぁ!』

『瞬かぁ?瞬だよなぁ!』

『いくぞぉ!大和!ぶっちぎれ!』

『ありふれた街中に…♪』

『なんか、すごいねぇ?見に行こう!』

『『soul shout!』『soul〜shout!!』』

『アンコール、アンコール。』

『久しぶり、最高のバンドの曲を聞いたねぇ?観客が1000人ぐらい集まったんじゃないかなぁ?ツイタァーにあげた?』

『もちろんだよぉ。』

『すごいよぉ…幻のバンドだって!』

『えぇ…そうなのぉ。』

『コメントで幻のバンド『N&S』の『soul shout!』を聞けるとは思わなかったなぁ…涙が出そう…だって?』

『すごいバンドなんだねぇ?』


『まさかなぁ…瞬ちゃんと又、バンドが出来るとは思わなかったなぁ…。』

『ところで、今日は誰かと来たのかぁ…?』

『えぇ…、あぁ…久美と来たけど…』

『えぇ?おまえのほかにはいないぞぉ?大丈夫かぁ?』

『何言っているんだよぉ。』

『いないぞぉ。』

『ちょっと、待って…電話してみる。久美ちゃんどうした?』

『ごめんねぇ…盛り上がっていたから…先に帰ったのぉ…今日は、男同士でつのる話もあるでしょ?だから、今日は遠慮しておくねぇ?』

『あぁ…そうかぁ、久しぶりに一緒にいたかったなぁ。でも、ありがとう。』

『いえいえ、でも、すごぉ〜く、気持ち良く歌っていたねぇ?もっと、好きになったなぁ…。惚れちゃったなぁ…意外な一面を見た感じだなぁ…。』

『そうなんだぁ…。でも、昔、雪と一緒に見たんだよねぇ?少しは思い出した。』

『少しだけだけど…一緒に『N&S』のうちわを持って応援していたみたい…でもねぇ?大和さんと瞬ちゃん以外にもう、1人いたみたいなのぉ…その人に助けてもらったような気がするのぉ…なぜかなぁ?』

『あぁ…ありがとう。後は直接、大和に聞いてみるよぉ。』


『なぁ…瞬、久しぶりに飲まないかぁ?』

『そうだなぁ…。少し飲みたいかなぁ…知らなければならない記憶もありそうだなぁ…』


『いらっしゃいませ。何名様ですか?』

『あぁ…2人です。』

『はい、こちらにどうぞ。』

『はい、お通しは『キュウリと竹輪の梅肉和え』と『肉じゃが』です。どうぞ?

あぁ…ところで、飲み物は?』

『あぁ…そうだなぁ…ビールで大丈夫かぁ?』

『あぁ…大丈夫だよぉ。』

『じゃ、生を2つ。』

『あいよぉ、生2丁。』


『それにしても、瞬ちゃん元気だったかぁ?』

『あぁ…元気だよぉ。』

『あれかぁ、やっぱり、仕事してるのかぁ?スーツ着て満員電車で出勤してるのかぁ?俺は、清掃のバイトして、たまに、警備員をしてるよぉ…情けないけどなぁ…。』

『いやぁ、俺はまともに仕事してないよぉ。』

『えぇ…マジかぁ。』


『はい、お待たせしました。生2つです。』

『まずは乾杯だなぁ…。8年振りにあって、『soul shout!』を歌ってくれてありがとうなぁ…。』

『いえいえ、又歌っても良いかなぁ?』

『もちろんだよぉ。あぁ…つまみを頼もう。』

『そうだなぁ…。やっぱり、唐揚げは欠かせないなぁ…。』

『やっぱりなぁ…瞬ちゃんは変わらないなぁ…。唐揚げが大好きだったよなぁ。後、刺身の盛り合わせと大根サラダと焼き鳥の盛り合わせを頼もう。』

『そうなんだぁ…。』

『いやぁ、それにしても、よく、俺が桜木町駅で路上ライブしているのに気がついたなぁ…』

『実はなぁ…。今、小説家になっているのは知っているかぁ?』

『えぇ?マジでぇ?夢叶ったのかよぉ?すげぇ!そう言えば、遠藤が交通事故で亡くなってから8年前になる頃からだったよなぁ…。無我夢中で人が変わったみたいに執筆をはじめて、大学4年の頃には作家デビューだもんなぁ。』

『えぇ…遠藤って…?』

『おいおい、マジでかぁ?一緒に『N&S』でバンドしていた。遠藤 裕一だろぉ?ベースを弾いていたじゃないか…』

『一緒に葬式行っただろぉ?それに、大好きだった久美ちゃんと雪をかばってなくなっただろぉ?』

『もしかしたら、久美や雪、瞬ちゃんが変わったのはその時期からだったのも忘れたのかよぉ?あまりに衝撃的だったから、3人とも何かを取り返すように、連絡を取らなくなったよなぁ。』

『そうだったのかぁ…』


『はい、お待たせしました。唐揚げと刺身の盛り合わせと大根サラダと焼き鳥の盛り合わせです。』

『あぁ…ありがとう。後、生2つ追加で。』

『はい、生2丁追加。』


『それにしても俺は、ギターリストとして、成功する為に、バイト生活をしていて、雪は俺を忘れるように、仕事に夢中になり、久美はおまえを追いかけるように、読書に夢中になるし、瞬ちゃんは小説を書きまくていたなぁ。情けないよなぁ…俺は、裕ちゃんを忘れないでギターを弾きながら、瞬ちゃんが戻ってくる事を願ってギターを弾いていたんだぁ。』

『あぁ…そうだったのかぁ…。大切な記憶が消えていたよぉ。』

『いやぁ、良いんだぁ…。でぇ?どうして、桜木町駅で路上ライブしている事を知ったんだぁ?』

『あぁ…そうだったなぁ。実はなぁ…。現在、雪村出版の作家なんだけど…俺の担当が久美ちゃんなんだぁ。お互いにその時の記憶はないんだけど…奇跡的に対面したんだぁ。そして、たまたま、ツイタァーをはじめたら、フォローアーで雪ちゃんと知り合いになった。そしたら、点と点を結ぶように、奇跡的に対面したんだよなぁ。そして、雪ちゃんが大和の居場所を知っていて、今日に至るのさぁ…』

『そうだったんだぁ。なら、みんなの連絡先は解るのかぁ?俺は雪に逢いたいなぁ…。』

『解った。解った。今度、機会があったら逢えるからなぁ。その前に、遠藤 裕一の話をしなければならないけどなぁ…。』

『そうだなぁ…。残酷な記憶が甦ってくるかも知れないけどなぁ…。』

『そうだねぇ。』

『お互いに大変だけど…又、逢おうなぁ…。』

『もちろんだよぉ。でも、小説家として、デビューしても、『鏡花水月の花言葉喫茶〜澤村あやめ』だけの印税だけでは食べていけないから、落ち着いたら、連絡するなぁ…。』

『もちろんだよぉ。まずは『鏡花水月の花言葉喫茶〜澤村 あやめ』を読んでみるなぁ。 』

『あぁ…ありがとう。』

『じゃあなぁ。』


その頃〜久美は…

『あぁ…久しぶりに、大和さんに逢える事が出来たのに…遠慮しちゃったなぁ。でも、本当は真実を聞くのが怖かったんだけど…大和さんって、歌が下手だったなぁ…。でも、相変わらずにギターの演奏は上手だったなぁ…。それにしても、瞬ちゃんは昔から、歌が上手いなぁ…。そう言えば、私の為に、よく、歌ってくれたなぁ…懐かしいなぁ。突然、歌いだすからビックリしたけど、桜を見ながら『桜坂』を歌ってくれたなぁ。うれしかったなぁ…あれぇ、急に思い出したなぁ…。何でだろう?』





『いやぁ、久しぶりに『soul shout!』を歌ったなぁ。忘れていた記憶が甦ってきているなぁ…。これからどうなるのかなぁ…あぁ…そう言えば、桜の下で久美ちゃんに『桜坂』をよく歌ったなぁ。涙を流して感動してくれたなぁ。最後にキスしたんだよなぁ…。えぇ?なんでだぁ!記憶が甦ってきているなぁ…。よし、酔いも覚めてきたから、仕事、仕事、仕事しよう!』

今日の百人一首は…

『文屋 朝康〜白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける』


20××年

『先生、久しぶりに先生の家に泊まって朝御飯を食べて散歩とはうれしいなぁ…。』

『いやぁ、一緒に付き合ってくれてうれしいよぉ。』

『色々な事がお互いあったねぇ?』

『そうだねぇ…遠藤さんがみんなの前に現れたり、ツイタァーの『Soul Shout!』がきっかけに大和がギターリストとしてデビューしたり、雪が女優デビューでしょ?』

『そうだねぇ。それに、まさかなぁ…雪と大和が結婚するって、新聞でみるとはビックリしたよなぁ。』

『本当ねぇ?』

『だよなぁ…新しい作品の執筆活動が忙しくなって5年も経過したから、その間に雪と大和が恋を愛に変えていたとはなぁ…』

『そうだねぇ…『まさかねぇ?みんなで逢って、今度はキャンプだねぇ?』と言っていたけど…叶わなかったねぇ?』

『そうだねぇ…でも、学生ではないから、疎遠になるからしょうがないねぇ?』

『なら、私達も一緒に生活をしようかぁ?』

『そうだなぁ…この作品が完成した頃には真剣に考えるよぉ。』

『本当に?』

『もちろんだよぉ。』

『ありがとう。あぁ…寒いなぁ…。』

『ほらぁ』

『えぇ?』

『ほらぁ、これで温かいだろぉ?』

『もう、先生ったら、後ろに回ってハグするとは…』

『こっちの方が良いなぁ…。』

『えぇ?』

『ほらぁ、私の顔が見えないでしょ?』

『もう、好きだなぁ…。』

『もう、苦しいよぉ。バタバタ。』

『あれぇ、あれは何だろう?』

『えぇ?何、何?』

『あぁ…白露かぁ…』

『綺麗だねぇ?葉の上に、宝石が輝いているみたいだなぁ…』

『そうだねぇ…久美の瞳のように綺麗だなぁ…。』

『うれしいけど…恥ずかしいよぉ。もう、顔が近いなぁ…。こんな素敵な時間をありがとう。』

『秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける。』


『えぇ…マジかぁ。雪が女優で、大和がギターリストで結婚って…。こんな夢みたいなことがあるのかぁ?まぁ、もしかしたら、今日の路上ライブを撮影していたって事かぁ…確かにあり得るかもなぁ…。というよりも、久美と一緒に泊まって、朝御飯…散歩って…うれしいなぁ…。どうなるのかなぁ…。』



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