第23話 わが身ひとつの 秋にはあらねど

『先生、先生?先生、おはようございます。』

『あぁ…君かぁ…おはよう。』

『最近は寝不足ですか?』

『そんな事はないけど…目が疲れやすくなっているみたいなんだぁ?』

『そうなんですねぇ?だろうと思ってブルーベリーのヨーグルトを持ってきましたよぉ。』

『あぁ…ありがとう。後で食べるねぇ?ごめん、少し、寝るねぇ?』

『えぇ…もう、しょうがないなぁ…あれぇ、『弘法の里の湯』って…いつ、行ったのかなぁ…最近、忙しいから行けないはずだけど…あぁ…もしかして、仲村さんと行って来たなぁ。』

『あぁ…そろそろ、30分だなぁ…先生、そろそろ起きて下さい。』

『やめろぉ!これから先は行ったらダメなんだぁ!はぁ…君かぁ…嫌な夢を見たよぉ…』

『なんか、すごくうなされていたみたいですねぇ?えぇ!どうしたんですかぁ。』

『少しだけ、このままでいて、欲しい…』

『はぁ、はい。』

『ありがとう…やっと落ち着いたよぉ…ちょっと、シャワーを浴びてくる。』

『どうしたんだろう。もしかして、先生には深い傷を抱えているのかなぁ?』

『あぁ…さっきはごめんねぇ。嫌な夢を見たんだ。』

『どんな夢だったのですか?』

『深い深い森の中で、歩いていると目の前に橋がかかっている場所に出るんだ。その橋が壊れているにもかかわらずに橋を渡ろうとするんだぁ…何度も橋が壊れている事を伝えるけど、橋を渡った方が街への近道だからなぁ…渡ろうとするのさぁ…そして…夢が覚めたのさぁ…』

『なるほどなぁ…だから、必死になっていたんだぁ…最後に。『止めろ!これから先は行ってはダメなんだぁ!』になったんだぁ…』

『最近は夢をよく見る事が多くてねぇ?』

『あぁ…私も昨日、夢を見ましたよぉ…先生と山登りをする夢何ですよぉ。』

『へぇ、どんな夢?秦野駅から権現山の山頂で富士山を見て、お弁当を食べる夢です。あぁ…私のは、先生の担当なので、たまたまですよぉ。』

『あぁ…そうなんだぁ。でも、私が夢の中にねぇ?嬉しい反面、少し戸惑うけど…願いが叶ったら良いねぇ?山登りは嫌いではないから、落ち着いたら行きたいねぇ?』

『えぇ!良いですか?最近、『弘法の里の湯』に行ってますよねぇ?』

『えぇ!何故、その場所を知っているのぉ?』

『だって、先生の机に『弘法の里の湯』の半券とパンフレットのコピーがありましたよぉ…』

『あぁ…これかぁ…たまたま、丸橋生命のお姉さんが営業に来て忘れて行ったのさぁ。』

『なるほどねぇ?(良かった…)』

『たまたま、本厚木から営業に来ていてねぇ?『小田急線の駅に鶴巻温泉駅があるでしょ?そんな駅は降りる人いるの?と質問したんだよぉ。』

『でぇ、どうだったんですか?』

『実は駅前の『弘法の里の湯』の半券を見せて、鶴巻温泉を熱く語るから、パソコンで検索して、出力したのさぁ。実は周囲には大山や権現山や弘法山があり、山ガールのスポットらしんだぁ。ついつい、箱根までロマンスカーで観光するので素通りだろうと勘違いして、久しぶりに怒られてねぇ?』

『そりゃ、その地域に住んでいたら、私も熱くなりそうだなぁ…先生の事だから、『田んぼと素通りする場所でしょ?』ぐらいだけ伝えたでしょ?』

『あぁ…近い事は言ったなぁ…後は秦野はたばこが有名とか?本厚木はシロコロホルモンは伝えたけど…』

『そりゃ、有名だけど…それ以外の知識はなかったのでは?』

『するどいなぁ…正解だよぉ…』

『でも、本当ですか?本当に、丸橋生命のお姉さんですか?』

『ほらぁ、名刺だよぉ…』

『あぁ…本当だぁ…丸橋生命 本厚木支店

上村 里子さんかぁ…』

『里ちゃんとは仲が良いなぁ…』

『えぇ!里ちゃんって…ちょっと、里ちゃんてどういう仲なんですかぁ…』

『生命保険の担当者とお客だよぉ…』

『違うでしょ?』

『相変わらず、するどいなぁ…今度、みんなで会うけど…』

『へぇ、好きなんだぁ…』

『そうだなぁ、好きだったが正解かなぁ…』

『えぇ?そうなんですか?そりゃ、営業とはいえ、毎週、来てくれたら、好きになるさぁ…頑張っている姿に感動さえするさぁ…』

『あぁ…なるほどねぇ?でも、今度、みんなで会うんですよねぇ?』

『そうだけど…楽しくご飯食べたり、誕生日を祝ったり、お酒を飲んだりはするけど…お互い仕事もあったり、好きな人がいるから一線は越えないけどねぇ?』

『えぇ?そんな事出来るんですか?』

『もしかして、そんな事あり得ないとでも?』

『確かに…最初はお互いに意識した時期もあったけど…最初のきっかけが仕事になるとそうもいかないって…』

『そうですねぇ?でも、男女の出逢いはいつどうなるかぁ…解らないですよねぇ?』

『そりゃ、可能性は否定しないけど…』

『プライベートでは1人では逢わないで下さいよぉ…』

『えぇ?どうした?気になるのかい?大丈夫だよぉ…結婚しているからなぁ。』

『あぁ…良かった。なら、心配はないなぁ…』

『あぁ、そう言えば、いつもの?』

『はい、先生。ルイボスティーとソフトチキンとパクチー大量のサラダとハムとチーズのサンドイッチでぇ〜すぅ。』

『あぁ…ありがとう。原稿が出来ているから、持って行ってねぇ?』

『はい。』

『あぁ…原稿が出来たら又連絡するねぇ?』

『はい、待ってます。今度、一緒に山登り約束ですよぉ?』

『解ったよぉ…』


『あぁ…ビックリだなぁ…先生が生命保険に入っているとはなぁ…それに、担当の人と仲が良かったのかぁ…なおかつ、今でも逢っているのは…仕事とはいえ、嫉妬するなぁ…

とはいえ、結婚しているのは良かった。あぁ…もしかして、先生に嫌われないかなぁ…大丈夫かなぁ?あぁ…嫌だぁ…私も仕事でしょ?もう、私もおかしいなぁ…』


『ふぅ…とっさについた嘘だったけど…危なかったな…これが夢の中の出来事だったら…どんな反応をしめすのかなぁ…想像したら怖いなぁ…。それにしても、生命保険入っていて、良かったなぁ…。いやぁ、それにしても、久美ちゃんからお誘いはうれしいなぁ…来月ぐらいにさりげなく誘うかなぁ。さぁ、仕事、仕事!』


今日の百人一首は…

『大江 千里〜月みれば 千々にものこそ

悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど』


20××年

『先生って…最低ですねぇ?』

『えぇ?どうしたんだよぉ?理由を聞かせて欲しいなぁ…解らないから…』

『はぁ?教えないわぁ…1人で悩んでみて。』

『なぁ…機嫌なおして、来て欲しい。待っているから…』

『ガチャン。』


『あぁ…最近は、『小説』も評論家から不評を受けるし、それで売上は半減と…それにマスコミからは写真を撮られて不倫騒ぎになるし…しまいには、隠し子騒動のフェイクニュースも出るからなぁ…そりゃ、久美ちゃんも逢いたくないよなぁ…あぁ…それにしても、桜木町から見える月は綺麗だなぁ…色々とあると秋の月は辛いなぁ…秋は私の為にあるのではないけど…』

『フロントです。坂浦様に連絡が入っておりますが…』

『はい、坂浦ですが…』

『えぇ!久美ちゃんどうした?新しい作品読んだわぁ…』

『あぁ…そっか…』

『ありがとう。元気でねぇ…』

『えぇ?それだけ…ちょっと、まだ話が終わっていないけど…』


『ピンポン…』

『ルームサービスかなぁ…』

『久美ちゃん、どうしたのぉ?』

『もう、泣かないで…』

『だって…もう、逢えないと思ったから…』

『新しい作品を読み返しながら…瞬ちゃんの気持ちが解ったわぁ…あなたが、純粋に私を愛してくれる事を…これからも私だけをみてくれますか?』

『もちろんだよぉ…』

『わが身ひとつの秋にはあらねど…想いは伝わる。』


『あぁ、夢かぁ…それにしても、良かったなぁ…久美ちゃんを大事にしなきゃなぁ…久しぶりに涙を流してしまったなぁ…きっと、これは正夢なんだろうなぁ…幸せにしなきゃなぁ…』










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