第16話 まつとし 聞かば 今帰り来む
『先生、おはようございます。』
『あぁ、おはよう。』
『顔色が悪そうですけど、大丈夫ですか?』
『ちょっと、疲れが出てねぇ…』
『そりゃ、そうですって。もう、6月になりますからねぇ。2ヶ月、一生懸命に執筆してましたからねぇ?』
『そうだなぁ…もう、2ヶ月が経過するんだなぁ…まだ、2週間ぐらいの感覚しかないなぁ…』
『それは、先生の執筆するのが早いからですよぉ。最近は1ヶ月に8話のペースですからねぇ?』
『えぇ、早いのかなぁ…迷惑になっていないかなぁ?』
『いえいえ、先生に逢うのが楽しみですから、私はうれしいですけど…先生が倒れないか…心配なんですよぉ。たまには、温泉でも行ってはねを伸ばしたら良いと思いますけど…』
『そうかなぁ…でも、1人で行くと寂しくなるからなぁ…一緒に行ってくれるとうれしいけど…』
『えぇ?一緒にですか?まずいですって…』
『そうだよなぁ…』
『あぁ…でも、近くに温泉施設がありますから、打ち合わせというのであれば大丈夫ですよぉ。』
『えぇ?本当に?』
『なら、今度、先生の特別企画を考案してみますよぉ。『坂浦 瞬先生と温泉の魅力について語る』を上に掛け合いますねぇ?それなら、会社も大丈夫だと思いますよぉ。』
『あぁ…温泉で思い出したけど、薬師寺は昔は銭湯だったらしいよぉ。知っていた?』
『えぇ?そうなんですか?』
『確か、昔、疫病が流行して、風呂に入る習慣がなかった頃に薬師寺では薬を提供したり、仏に拝んだりと色々したけど…効果が出なくて、風呂に入って身体を清めたら、治ったらしいよぉ。』
『本当ですか?』
『昔、本で読んだ事があるけど…その当時、生まれていないから真実までは解らないなぁ…あぁ、でも、江戸時代の浮世絵には混浴があたり前だったがあまりに入浴料が高かったらしいよぉ。それに庶民には風呂に入る文化がなかったんだよぉ?』
『へぇ、そうなんだぁ。色々、知っているんですねぇ?尊敬しますよぉ。』
『ありがとう!あぁ…ところで…』
『はい、持ってきてますよぉ。ルイボスティーとソフトチキンとパクチー大量のサラダとハムとチーズのサンドイッチです。』
『あぁ…ありがとう。原稿が出来ているから持って行ってねぇ?』
『はい。』
『あぁ…次の原稿が出来たら連絡するねぇ?
では、またねぇ…』
『何か、いつもの先生とは違って疲れがたまっているみたいだったなぁ…もしかしたら、私が原因だったのかなぁ…私に逢うのが楽しみとは言っていたけど無理をさせていたのかなぁ…それに、1人で行くのは寂しいと言っていたしなぁ…そうだぁ!私の方からサプライズで仕事抜きで誘ってみようかなぁ?もしかしたら、少しは元気になるかも?』
『あぁ…仕事抜きで一緒に話をしたり、食事をしたり、世間話をしたりしたいのに…好き過ぎて、執筆を早めていたなぁ…本当に書きたい事を書けていたのだろうか…少しだけ、自分を信じる事が出来なくなってきたなぁ…これで良いのかなぁ…あぁ…辛くなってきたなぁ。あぁ…いかん、いかん。さぁ、気合いを入れて、仕事、仕事だぁ!頑張らなきゃ!』
今日の百人一首は…
『中納言 行平〜立ち別れ いなばの山の
峰に生ふる まつとして聞かば 今帰り来む』
20××年
『瞬さん、瞬さん、目を開けて下さいよぉ!まだ私を残して死なないでよぉ!』
『あれぇ、久美ちゃんだよなぁ…?』
『だいぶ、老けているけど…可愛いなぁ…それにしても、もしかしたら、本当に死んだのかなぁ…えぇ、これは、今、書いている小説が飾ってあるけど…他にも沢山の小説が飾ってあるなぁ。』
『ほらぁ、久美ちゃん、元気を出してよぉ!先生とは、30年以上も長い付き合いがあったけど…こんな事になるとは思っていなかったはずだから…それに、久美ちゃんが先生の事を信じてあげないとぉ…』
『でも、どうして最後まで私が信じてあげられなかったのかぁ…本気に好きだという気持ちに答えてあげられなかったのかなぁ…って』
『ほらぁ、先生も気持ちは伝わっているから、笑顔になって迎えてあげよう?』
『瞬さん、瞬さん!私はまつとして聞かば 今帰り来む。』
『まつとして聞かば 今帰り来む。』
『はい、カット!』
『先生、こんな感じですけど…どうですかねぇ?』
『えぇ…えぇ!これは、もしかして?』
『あれぇ…夢かぁ…それにしても、こんな事ってあるのかなぁ?自分の葬式の映像かと思ったけど…あれは、ドラマの一部なのかなぁ…少し、ワクワクするなぁ…それにしても、どうなるのかなぁ…あれぇ、台本が何であるのかなぁ…『すれ違いの奇跡〜儚い恋物語16話』って不思議だなぁ…』
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