第15話 君がため 春の野に出でて 若菜つむ

『先生、先生、起きて下さいよぉ!そこで、寝たら風邪ひきますよぉ。』

『あぁ…来てたんだぁ…すっかり、寝てしまったよぉ。今、何時かなぁ?』

『もう、先生ったら、17時になりますよぉ。』

『えぇ、もしかして、16時に来ていて、1時間も寝てる姿を見ていたのかなぁ…?』

『いい気持ちで寝ていたので…起こせないなぁ…っと、それで先生の小説『鏡花水月の花言葉喫茶〜澤村あやめ』を読んいたんですよぉ。』

『あぁ…その作品かぁ…どうだった?』

『まだ、読み始めたばかりですけど…どんどん、引きずりこまれますよぉ。それにしても、読みやすくて好きだなぁ…この作品は書かないですか?確か、24話と短いですよねぇ?

読みやすいですし…とにかく『澤村あやめ』の独特な性格は愛されるキャラクターだと思うなぁ…私は大好きだなぁ…。』

『そうかなぁ…この作品が完成したら、書いてみるよぉ!あぁ…そう言えば、映画は何が好きなのかなぁ?』

『えぇ?もしかして、ラインを読んだのですか?』

『あぁ…もちろん。』

『そうなんだぁ…既読になっていたけど…返信がなくて不安でしたよぉ…』

『あぁ…そうだったんだぁ…ごめんなぁ。実はあの後、映画は何が良いかなぁ…っと悩んでしまって…久しぶりに映画を見るのも良いけど…最近はテレビを見る事も映画を見る事もなくてねぇ…』

『えぇ?そうなんですか?それでは、どんな映画が好きだったのですか?』

『そうだなぁ…『バック トゥ ザ フューチャー』『ET』『スタンド バイ ミー』『タイタニック』『レオン』あぁ…それからねぇ…『シティ オブ エンジェル』は大好きな映画だなぁ…』

『あぁ…私もその作品は大好きですよぉ。切なくて、最後は涙なしでは見れないですよねぇ?』

『そうなんだよぉ。解ってもらえてうれしいなぁ…』

『なら、今度、私が見たい映画に一緒に行きましょうねぇ?』

『もちろんですよぉ。』

『あぁ、先生?これから、夕食ですよねぇ?』

『そうだけど…今日は、いつも作ってもらったから、私が夕食作りますねぇ?』

『えぇ?本当に?良いのぉ?』

『もちろんですよぉ。何かリクエストありますか?』

『なら、『オムライス』が食べたいなぁ…』

『私もオムライスは好きですよぉ。『オムライス』と言えば『ポムの樹』が好きだなぁ…』

『えぇ?知っているんだぁ?『ポムの樹』?』

『当然ですよぉ。有名ですからねぇ?上手く出来るかわからないけど…オムライスを作りますよぉ。』

『うれしいなぁ…楽しみだなぁ…。』

『あれぇ、冷蔵庫に材料が揃っているのはさすがですねぇ?先生は執筆していて大丈夫ですよぉ。』

『いやぁ、エプロン姿の稲村さんは素敵だなぁ…もう、執筆どころではないなぁ…』

『もう、先生ったら、見ていたら、緊張して作れなくなるから…ほらぁ、向こうに行って、ほらぁ…では、まずは食材の準備っと。玉ねぎ、鶏肉、玉子、ケチャップっと…チーズーとパクチーも入れてあげようっと…それにしても、先生って…子供っぽいところあるなぁ…いつもは真剣に原稿に向かっているから、神経質で怖い人だと思ったけど…好きになったら、一途な性格は好きだなぁ…もっと、色々、知りたいけど…あぁ…危ない、危ない、少し固くなったなぁ…大丈夫かなぁ?先生、出来ましたよぉ。オムライスですよぉ。』

『うわぁ〜い。やったぁ!オムライスだぁ!ヤッホ〜イ!ルンタッタ、ルンタッタ、ルンルンだぁ!』

『もう、先生ったら、本当に可愛いなぁ…どう?美味しい?』

『いやぁ、本当に美味しいなぁ…!それに、好きな人に作ってもらったから最高だよぉ。うれしいなぁ…』

『えぇ?好きな人?』

『いやいや、素敵な人にねぇ…』

『良かった。喜んでもらえて。』

『あぁ…美味しかった。ありがとうねぇ?久しぶりに、作ってもらったからうれしかったなぁ…。又、作って欲しいなぁ…』

『もちろん、喜んで!』

『あぁ、もっと話したいけど…そろそろ、仕事しなきゃなぁ…ごめんねぇ?原稿出来ているから、持って行ってねぇ?あぁ…良かったら泊まって行く?』

『もう、先生ったら…そんな関係は望んでないですよぉ!』

『あぁ…そうですねぇ…つい、調子にのってしまいました。では、原稿が出来たら連絡しますねぇ?』

『はい』


『あぁ…素敵な関係は望んでいるけど…まだまだ、知らない事も多いし、まだまだ不安だなぁ…性格も顔も料理もすべて完璧だと不安があるなぁ…もっと、だらしない姿をみたいなぁ…あぁ…嫌だぁ…もう、想像したらよくないぞぉ。これは、仕事よぉ。仕事の関係よぉ。』


『あぁ…久しぶりに素敵な女性から料理を作ってもらったなぁ…たぶん、母親以外から手料理は初めてなんじゃないかなぁ?たぶん、そうだなぁ…大学でみんなで焼きそばやらカレーライスは作ったけど…私だけに料理を作ってもらったのは初めてだなぁ…それにしても、エプロン姿は可愛いかったなぁ…あぁ…変な想像をしてしまった。さぁ!仕事、仕事だなぁ…。』

今日の百人一首は…

『光孝天皇〜君がため 春の野に出でて

若菜つむ わが衣手に 雪は降りつつ』


20××年

『あれぇ、先生、先生?いませんかぁ?おかしいなぁ…何処に行ったのかなぁ?プルプル、プルプル…あぁ…先生なにをしているんですか?』

『あぁ…新年明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。あぁ、今は若菜をつんでいるよぉ。』

『えぇ?何処にいますか?今、向かいますから?』

『あぁ…マンションの裏にある庭を借りたからそこにいるよぉ。』

『何処ですか?あぁ…いたいた。えぇ、これは、何ですか?』

『『春の七草』は知っているかい?』

『えぇ、確かぁ…『せり』『なずな』『ごぎょう』『はこべら』『ほとけのざ』…あぁ…あと、『すずな(カブ)』『すずしろ(だいこん)』ですよねぇ?』

『その通り、今、稲村さんの為に、取ったから、次は私の為に取ってもらいたいなぁ…』

『えぇ?私はスーツですけど…汚れてしまいますので…だめですかぁ?』

『このとおり、頼むよぉ。この長靴使って…』

『解りましたよぉ。先生に言われたら取りますよぉ。あれぇ、雪降ってきたんですけど…』

『あぁ…ごめんねぇ?でも、絵になるなぁ…実はねぇ?『春の七草』は無病息災で有名だげど、昔、『若菜つみ』は『七草の発芽をとる事』で万病にきくと言われていたんだよぉ。それに、好きな人に採ってもらったら格別、効きそうだからさぁ?』

『あぁ…なるほどねぇ?もしかして、それを好きな人の為にやりたかった?そして、好きな人に採ってもらいたかった。』

『そうなんだぁ。もう、先生ったら…私はちゃんと、好きな人の事を考えて取りましたよぉ。』

『君がため 春の野に出でて 若菜つむ…だなぁ…綺麗だなぁ…』

『えぇ…先生、何か言いました?』

『いやいや、さぁ、一緒に戻って、『七草粥』を作って食べよう?』

『そうですねぇ。』



『あぁ…おいしいなぁ。』

『そうですねぇ?コンソメを入れて作ったのが良かったですねぇ?』

『そうだねぇ?昔、食べた時は薬草の味しかしなくてねぇ?美味しくなかったんだぁ…』

『解るなぁ…おいしくなかったなぁ…』

『薬草の味ねぇ…とはいえ、昔は野山にある草花は薬草でしたから、薬だったからねぇ?』

『でも、先生が私の事を考えて採ったと思うとそれだけで美味しさ倍増ですよぉ。ありがとうございます。』


『あぁ…夢かぁ…、もう少し隣に居たかったなぁ…。あれぇ、待てよぉ…『七草粥』ってまだ先の話だなぁ…あるわけないなぁ…それに、マンションっていつになるやらぁ…あぁ…夢の中での出来事が本当になればいいなぁ…』


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