先見と犠牲(3)
昼休みを終えてから午後の授業も全て終わり放課後になった。
「いっさむー!!帰ろうぜ!!!」
ノートなどを鞄に詰め込んでいると勇武に近づいてくる二人組み。
哲太と始だ。
なんだか久しぶりに見た気がする。
まあそれだけ最近忙しかったのだけれども。
「あー……今日はちょっと……」
勇武にしてみれば一応部活に所属している身である。
部長に断りもなく勝手には帰れない、と断ろうとすると――
「春木さん、いらっしゃいますか?」
教室の出入り口で勇武を探す声が聞こえてくる。
友人二人の向こう側から聞こえたので立ち上がり見てみると、
「あれ?魚追さん?」
そこには何故かつくしの姿があった。
普段ならすでに部室に向かっているはず。
自分に何か用が有るのだろうか?と思っていると、
「先程私の所に部長さんが来て、『今日私は恋愛を極めるために旅に出るので部活は休みするから御縞君や春木君に伝えておいて』とか言ってました。
凄く落ち込んでいたみたいですけど、部長さんどうしたのでしょうか?」
思い当たる節は……ある。
『占言』の結果がよっぽどショックであったのだろう。
「まあ……色々と、ね」
勇武はあまり言い触らさないでおこうと言葉を濁す。
「?そうですか。それじゃあ私はこれで――」
「あ、う、魚追さん!」
踵を返し立ち去ろうとするつくしを呼び止める勇武。
つくしは不思議そうに振り返る。
「なんでしょうか?」
「……あのさ、もう少し話したいし一緒に帰らない?」
それはとっさに出た言葉。
本当は特に何も用はなかった。
だがもう少しつくしの事や『騎士』の事を知りたい。
そんな思いが溢れた結果、つくしを呼び止めていた。
まあ、断られたらそれはそれでと思ったが――
「――あの、ごめんなさい、もう友達と帰る約束をしているので……」
申し訳なさそうに謝るつくし。
駄目であった。
「あ、いやこっちも唐突に――」
「……でも友達が『いい』と言えば一緒に帰れますので……ちょっと聞いてきますので少々待っていてください」
そう言って微笑むとすぐ様、その友達の所に行ってしまった。
心なしか嬉しそうにしていたのは勇武の思い違いだろうか?
しかし予想外である。
勇武的には断られてそこで終わりと思っていたが、一緒に帰ると約束している友人の所にわざわざ聞きに行くなんて。
そんな真面目な所がなんとも――
「「い・さ・む・くぅ〜ん?」」
勇武のすぐ後ろから気色の悪い猫なで声。
もちろん声の主は友人二人。
「な~んかやけに親しげじゃないか〜い?今の眼鏡っ娘とさぁ?」
そう言いながら自身の眼鏡をくいっと上げる始。
そしてその隣で腕組みをしてうんうん頷いている哲太。
「……いや、まあ、ただの同じ部活の人だよ。うん」
目を合わせないようにぶっきらぼうに答える。
だが二人はますますニヤニヤしている。
と、そこに――
「勇武〜いる〜?」
聞き慣れた女性の声が教室に響く。
教室に居る全員が『今度は誰だ』とその声の方へ一斉に振り向く。
「……今度は莉狐姉ぇか――」
やって来た莉狐を見て勇武は溜息を吐く。
と、同時に、
ごすっ
「のぅ!!!!??」
莉狐の脳天唐竹割り踵落としが勇武の頭にクリティカルヒット。
――一瞬、勇武の眼前に可愛らしい柄の何かが見えたのは秘密だ。
ソレに付いて何か言ったら目つぶしが飛んでくるだろう。
「なに?私じゃ不満なのかしら?」
頭を抑えうずくまっている勇武をにこやかな笑顔で見下ろす莉狐。
その笑顔が逆に怖い。
その光景を見ている教室に居た全員――いや一部を除いて引いている。
「め、滅相も御座いません……」
勇武は痛みに耐えながらヨロヨロと立ち上がりそう答える。
まあ、そう答えるしかなかった。
「ところで姐さんはどうしてここに?」
始が疑問を口に出す。
そういえばそうだ。
部活はどうしたのだろうか?
「ん、今日は私んとこの部活が休みになったから久々に勇武と帰ろうかと――」
「お待たせしました春木さん」
莉狐の後ろから再びつくしが現れた。
――凄く、タイミング悪い。
「えっと――この子、誰かなぁ?」
後ろに振り向きつくしをじろっと見てから勇武の方に向き直る莉狐。
その顔はやはり笑顔で――先程よりも恐怖を感じさせる程。
「えーと……同じ部活の人で魚追つくしさん」
無難に紹介する。
いや他に言い様が無い。
するとそれを聞いて莉狐は笑顔になった。
「ああ!鈴ちゃんが言っていた子かぁ!
ヨロシクねつくしちゃん!」
莉狐はつくしの手を掴んでブンブンと握手をする。
「は、はい……」
突然の握手で戸惑いを隠せないつくし。
初対面でその握手はないだろうに。
「莉狐姉ぇ……魚追さん、困ってるぞ」
「え?あ、ごめんねー」
勇武のツッコミで我に返り手を止め、手を離す。
「第一、魚追さんは莉狐姉ぇの事知ら――」
「いえ知ってますよ。部長さんと同じクラスだと伺ってましたし」
クスリと笑うつくし。
『話で聞いたとおりの人』だと言わんばかりの顔だ。
「あ、そうだ春木さん。
一緒に下校する件ですが、友達も良いと言ってましたのでご一緒できますよ」
それを聞いた莉狐がギロリと勇武を睨む。
勇武は肩を竦め、溜息を一つ。
「あー……魚追さん、莉狐姉ぇ達も一緒でいい?」
「ええ、人数が多い方が楽しいですし、友達も喜ぶと思います」
微笑みながら了承するつくし。
「えへへーありがとうね〜勇武ー。それにつくしちゃんも」
満面の笑顔でつくしを連れて教室を出る莉狐。
ただまあ勇武に感謝してるのか怪しいが。
「……苦労してるな勇武」
「……頑張れよ」
左右の肩をポンと始と哲太に叩かれ同情される。
頭を垂れながら力無く頷く勇武であった。
「それで魚追さんの友達はどこに?」
みんなで下駄箱へ向かう途中。
つくしの友達がどこにいるか聞いてみる。
「今は校門のところで待っています」
「んじゃ待たせすぎるのも悪いから早く行こうか」
皆同意して足早に下駄箱に向かい素早く靴を履き替えた。
玄関を出るとそこには下校する生徒、そして運動部が活動をしていた。
勇武達はそれらを横目に校門へと歩いていった。
「あ、あそこに立っているのが友達です」
校門の近くまで来るとつくしはその友達を教えてくれる。
視線の方向には門柱に寄りかかる女子生徒。
「……マジ?」
その女子生徒を見て何故か少し絶句し、一言呟く勇武。
「あ!つくしー♪」
その女子生徒がこちらに気付き、駆け寄ってくる。
「もー遅いよ〜待ちくたびれちゃうじゃん」
「ふふ、ごめんなさい」
ぷーと頬を膨らませる女子生徒を見て微笑むつくし。
「それで一緒に帰りたいっていう物好きな人は――」
女子生徒はつくしの後ろの人々に目を向ける。
そして――勇武と女子生徒と目が合う。
「「…………」」
目が合った途端、固まる二人。
少しの間の後、
「え、あれー!?い、勇武ぅ!?」
「やっぱり葵か……」
二人同時に口を開く。
まあ勇武の方は先に気付いていたようだが。
「……?春木さん、葵ちゃんと顔見知りですか?」
「まあ……」
「顔見知りと言うかなんていうか……」
勇武と葵と呼ばれている人物が苦笑いしながら互いに顔を見合わす。
「何々?勇武がナンパした過去の女とか!?」
目を爛々と輝かせながらズズイと前に出てくる莉狐。
無論そんな訳は無い。
「……いや莉狐姉ぇも知ってるじゃん、コイツ」
「え?……ああっ!織姫 葵ちゃん!?」
莉狐がまじまじと女子生徒を見て、声を上げる。
「しっかし驚いた〜、まさか勇武がつくしと同じ部に入ってるなんてねぇ」
下校途中、葵が言ってくる。
彼女の名は
勇武が幼稚園入園時に出会った人物。
それを皮切りに幼稚園から中学2年まで同じクラスになるほどの腐れ縁である。
だが中学三年の時はやっと解放、いや別のクラスになった。
それでも時々は家に来ては長話に付き合わせられていた。
最後に会った時に『別の高校に行くんだ』とか話していたはずなのだが。
「その前に葵。お前、別の高校に入学決まってたんじゃないのか?
なんでうちの高校に来てるんだよ」
「あれねぇ……ちょっとした手違いがあってね。
それで第二志望のこっちに入ったんだけど……言ってなかったっけ?」
言ってないし聞いてもいない、と言った感じに肩を竦める勇武。
「手違いねぇ……」
何があったんだか聞いてみたいが、聞いたところで喋る葵じゃないのは昔から知っている。
だからそれ以上は聞かないことにした。
その内、口を滑らせて喋ってくれるだろう。
「あとこれでアイツがいれば面白いんだけどね昔みたいでさ」
あははと笑いながら葵は言う。
……アイツ。
今頃どうしてるんだろうか?
「アイツ?」
「どなたですか?」
莉狐とつくしが首を傾げる。
「魚追さんは……葵から聞いてるかもしれないけど、
小学校まで僕と葵ともう一人でよくつるんで遊んでたんだ。
そのもう一人が小学校高学年の時に転校して――」
「んー……あっ!!しょっちゅう女子のスカート捲りしてたあのバカか!!!」
勇武の説明で頭にその人物が思い浮かんだ莉狐。
その人物の行動も思い出したのか苦虫を噛み潰した表情になっていた。
ふと後ろを見ると。
2,3歩離れて歩いていいる始と哲太。
何やらコソコソ額をあわせるぐらいの距離で話し合っているが、
勇武が見ていることに気付くと勇武だけこっそり手招く。
「――なにこそこそしてるんだ?」
「いや大したことじゃないさ」
フッ……とカッコつけながら笑む始。
「なあ勇武、あの織姫って娘、俺たちに紹介してくれないか?」
ほんと、大したことじゃなかった。
「……本気で?」
つまり葵とお近づきになりたいと。
そういえばこの二人は中学3年からの付き合いで、葵とは会った事無かったのか――同じ中学なのになぁ。
「まあ……構わないけど、ただ――」
言いかけて言葉を止める勇武。
頭の中にある事が浮かぶ。
――黙って紹介すれば面白くなるかも、と。
「『ただ』?」
「いやなんでもない。おーい葵こっち来てくれー」
前を歩いていた葵を呼び寄せる勇武。
葵はすぐに振り向き駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「この二人がお前とお友達になりた――」
言いかけて始が勇武を押しのけて前に出てくる。
そしてイキナリ葵の手を握りしめ――
「一目で好きになりました、付き合ってください」
速攻の告白。
始の行動は予想通り。
さて葵の反応はと顔を見る――にっこり微笑んでいる。
ああ、こちらも予想通りになる。
そう確信した。
葵は無言で握られた手を振りほどき、素早く拳を作り――
ドゴォッ!!!!!
「へぶんっ!!??」
葵の拳は見事に始の眼鏡のブリッジを貫き眉間へと直撃した。
拳を喰らった始は、
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!!」
地面をのた打ち回りながら人間の耳では聞こえない悲鳴を上げていた。
「ごめんなさ~い。
私、アンタみたいなの好みじゃないの~」
てへ、と笑いながら人の眉間に拳を食らわせる女子。
それが葵。
「それでそっちの人も同じ事、する?」
ニッコリ微笑みながら拳を見せる葵。
哲太は首をものすごい勢いで横に振る。
――勇武が言いたかったのはコレのことだ。
『ただ――葵は莉狐姉ぇと同じ人種だから』、と。
勇武は面白そうだからあえて二人に言わなかったが予想通りになった。
「葵、紹介し忘れてたけど。
そこで悶絶してるのが本条始で、コイツが国崎哲太だ。
俺らと同じ中学だがよろしくしてやってくれ」
「はいはい。それじゃあ二人ともよろしくね♪」
にっこり笑む葵。
――もはや二人には天使とゆーより悪魔の笑みにしか見えないだろう。
こうして勇武一行は楽しく(一部例外)下校していった。
crystal knights 雪ノ山 噛仁 @snow-m-gamijin
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