先見と犠牲(1)

「でりゃぁあぁああぁぁ!!!!」


ザン!!


「グゲェェエェ!!!」


路地裏。

断末魔とドシャァという音を上げながら崩れ落ちる異形の生物――『悪魔』

その体は切られた箇所から光の粒となりやがて消えてなくなった。

――辺りに静寂が訪れる。

ヒュッ、と剣を振り下ろし元の『聖水晶』へと形を変える。


今の時刻は午後6時を回ったぐらいだ。

『悪魔』を見つけてから1時間、思ったよりも時間が掛かった。

もっと素早く片づけられるようにならないと――


「よお、ゴクローさん。こっちも終わったよ」


後ろから声がかかる。

振り向くとそこには学生服を着た同じ部活の先輩、風磨飛助がいた。


――あの『魔神』達が襲来してから早1週間。

その間、勇武は『お助け部』に入部し鈴音達から様々な事を教えてもらった。


まず『聖水晶』で生成された武器は人間、この世界の生物を傷つけたりする事は出来ない。だが『聖水晶』で生成された武具で攻撃する事により『悪魔』や『魔神』の魔力を分散させる効果を持っている。

『魔神』達は『魔界』と呼ばれる世界からやってきているらしい。そして『魔神』達の体は主に魔力で構成されている。その魔力が0になってしまうと体は形を維持できず消える――つまり死ぬ。


正に『聖水晶』の武器は対『悪魔』及び『魔神』専用武器である。

しかしその『聖水晶』自体がどうやって、誰が作ったかは今も不明。


次に『騎士』は自分たち以外にはいるのか?という疑問。


答えはいる。


世界各地に聖宮高校ウチみたいな『お助け部』の様なグループがあり、それぞれ『悪魔』達を相手にしているそうだ。しかし『魔神』との遭遇例は指折りで数えられる程。

それと今現在活動している『騎士』達はいずれも二十歳未満と言う。なんでも二十歳を超えると途端に『聖水晶』が機能しなくなるらしい。

稀に二十歳を超えていても機能している者もいるが力は現存の『騎士』よりも劣る。


では『騎士』であった者達はどうするのか?――現存の『騎士』達を最大限サポートをするという。

サポートの仕方は人それぞれで資金援助であったり、物資援助であったり、生活の手助けであったり。勇武が見た大量の予備の制服がそれである。

なお聖宮高校自体も元『騎士』によって立ち上げられたそうだ。


『騎士』の覚醒のタイミングは人それぞれ。

大体が身の危険が及んだ時に覚醒するらしい。

だが偶に生まれつき『騎士』として覚醒している事例がある。


そんな教えられた事を色々思い出す勇武。

ふと飛助は茜色の空を見上げると、勇武もそれにつられ見上げる。

天には一番星が浮かんでいた。

ただそれを眺めていた勇武だがある疑問が浮かび上がる。

――あの日以来一向に『魔神』達が襲ってくる気配が無いのだ。

今夜も『魔神』ではなく尖兵とも言うべき『悪魔』のみしか姿を現していない。


そしてもう一つ疑問がある。

『お助け部』の落ち着き様だ。

得体の知れない存在が現れ襲ってくるというのに、なんて言うかまったりしている。


『お助け部』に依頼があればそれをこなし、それ以外の時は街に出て『悪魔』を発見次第速やかに退治。

片が付いたらそのまま家に帰って良し、手強ければ応援を呼んで片づける――そんな状態だ。


まるで『魔神』が来ないのを予知しているみたいだ。


「先輩、一つ聞いても、いいですか?」


路地裏から人気ひとけのある歩道へと出たときに勇武は飛助に声をかけた。


「ん?なんだ?」


少し首を後ろに向け聞き返す。


「なんで、みんな落ち着いてるんですか?『魔神』が現れたのに――」


「――明日までは来ないって分かっているからだよ。ま、そこら辺は明日になればわかるさ」


そう言ってから歩き出す飛助、その後ろに続く勇武。

しばらく肩を並べ歩いていると飛助が話しかけてくる。


「ん?春木の家はこっちの方角なのか?」


「はい。そういえば風磨先輩の家って――」


「俺は県外から来てるから高校の寮に入ってる。

 部長も同じく寮に入ってるし、鵬次は市内の実家からだ」


「……寮もあるんですね。うちの高校」


改めて考えてみるとこの聖宮高校、相当の規模である。

以前パンフレットか何かで見たが敷地は東京ドーム約20個分の広さだとか。

まあ敷地の大半は自然そのままの山だったりするが。


「見た事ないのか?うちの寮……寮母さんがすんげぇ可愛いぞ」


にへらとデレた笑顔を浮かべる飛助。

寮ではなく寮母さんを推すのかと思うが――


「……ちょっとお邪魔してもいいですか?」


「まあいいんじゃないか、春木~なんだかんだお前も男だな♪」


勇武の肩をバンバンと叩く。

我ながら――と思いつつも勇武は飛助と共に寮へ向かっていった。






『悪魔』を倒した路地裏から歩いて数分。少々古めかしい建物が見えてきた。


「ほらあれが聖宮高校の寮、『双聖寮』だ」


双聖寮そうせいりょう

聖宮高校創立と同時に建てられた寮。

県外から来た生徒や色々な事情のある生徒、さらに海外の留学生などもここに入っているそうだ。

開いていた門から入り寮の玄関手前まで歩いていく。勇武は物珍しそうにきょろきょろしながら、


「思っていたより大きい建物なんですね」


「まあな、聞いた話だと一時期ここに入ってた生徒全員が『騎士』だった事もあったらしい――」


「お帰りなさい風磨君」


勇武と飛助が話していると、玄関から三つ編みの女性が財布片手に出てくる。


「ただいま、水瀬原さん」


「今日も『お助け部』の活動――あら?そちらの生徒さんは?」


三つ編みの女性は勇武に視線を向ける。

この人が飛助の言っていた寮母さんだろうか?と思っていると、

飛助が勇武を指差し、


「コイツがこの前言ってた『お助け部』の新入部員、春木だよ」


「あらあら、そうなの」


そういうと女性は姿勢を正す。


「初めまして、私はこの『双聖寮』の管理を任されている寮母の水瀬原みなせはら はかなです」


ぺこりと一礼。

そして儚が頭を上げると急に、


「それにこう見えても私、『騎士』なんですよ!春木君の大・先・輩なんですよ!えへん!」


可愛らしいどや顔しながら胸を張る。

――飛助の言う可愛いの意味がなんとなく分かった気がする。


「まあそれはいいんですが、財布持ってどうしたんですか?」


「そうそう!ちょっとお醤油切らしてこれから買いに行くところだったのよ。

 まだストックがあると思ってたんだけどね~」


儚はてへと笑いながら自分の額に拳をコツンと軽くぶつける。

なんかいちいち仕草が可愛い。


「あーそれじゃ俺がコイツ送るついでに買って来ますよ」


「本当?ありがと~!それじゃあお願いするわ、これお醤油のお金ね」


と、飛助は儚からお金を受け取る。


「それじゃあ気を付けてね。

 春木君、いつでも気軽に遊びに来てね♪」


手を振りながら満面の笑みで二人を見送る儚。二人は双聖寮を後にし歩き出した。


「……な?可愛いだろ?」


「……今度また、寮に遊びに行きますね」


いつでも気軽に遊びに来てねと言われた。

近いうちにお言葉に甘えようと心に決めた勇武であった。






翌日の昼休み。勇武は部室に向かう。

朝、学校に着くなり唐突に現れた鈴音に、


「昼休み部室に来るように!来ないと……どうなるか解っているわよね?」


と冗談とも取れない呼び出しを受ける。

昼食は購買部でパンを買ってあるので、部室で食べるつもりだ。

そして部室に着くと――そこには部員全員が揃っていた。


「やっと来たわね。

 ――それじゃ私、御縞君、春木君でいいわね?」


勇武以外の全員が頷く。なんだかよく分からないけど満場一致。

何の事かと聞こうとするが、


「まあ、ついて来ればわかるわ」


笑顔でそれだけ言うと、鈴音は部室から出て行ってしまう。

それに続いて哉芽もその後を追い出て行く。


「……えーと」


「ほら春木も行ってこい!」


ドンと飛助に背中を押されて、よろけながらも部室から出て前の二人を追いかけて行った。

買ったパンは――しょうがない後で食べよう。

二人の後を付いて行って、そして着いた先は――


「ここよ」


先頭を歩いていた鈴音が親指で示す先、それは屋上。

聖宮高校の屋上は常時解放されているそうだ。


しかし、この屋上は凄い。

鳥篭の様に屋上全体にフェンスが張られ、いたる所に木々や草花が植えられていてまるで森である。

あとで知った事だが何でもこの学校の理事長の趣味らしい。


「はぁ……」


そんな光景を眺めていて、なんていうか溜息しか出ない。


「驚いたでしょ?私もこれを見たときはびっくりしたわー」


あはは、と笑い止めていた歩みを進める。

森のような屋上の中を進んでいき、一本の木に辿り着く。

そこには一人の男子生徒が木の根元に腰を下ろしていた。

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