覚醒と胎動(6)
「……またお前かオリアス」
目を伏せ溜息を吐くエリゴル。
勇武はエリゴルのその奥に視線を向ける。
そこには莉狐を捕らえていた木の根のような存在があった。
エリゴルと同じ『魔神』――オリアス。
「お前がコイツを仕留め損ねてたからよぉ、
今度は失敗しないように手助けしてやろうと思ってよぉ」
「――あわよくば自分の手柄に、か」
ひひひ、と
刹那。
目の前の地面から猛烈な勢いで木の根が生え、勇武に襲い掛かってくる。
「くっ――『ソードオブソード』!」
『聖水晶』を剣に変え、襲い掛かってくる木の根を断ち切る。
なんとか戦うことが出来る。
剣を構え直し二体の『魔神』へ向き直る。
「――オリアス」
エリゴルは怒気を込めてオリアスの名を呼ぶ。
しかしオリアスは悪びれる事も無く、
「逃がさないよ様にしようとしただけじゃねぇか。
コイツとじっくり話したいんだろぉ?
ま、喋れなくなったりしたら悪ぃな、ひひひ」
と
同時に地面から幾つもの木の根が勇武を取り囲むように湧き出した。
「まあ手足引き千切っちまえば楽だろうけどなぁ?」
その言葉に背筋が寒くなる。
そもそも超再生の能力はどの状態まで有効なのか?
手足が千切れても平気なのか?
頭を吹き飛ばされても元に戻るのだろうか?
そんな事が瞬間、脳裏に
「――そう容易くできればな」
「あん?何を言っ――」
エリゴルの言葉にオリアスが聞き返すよりも早く――
ざんざんざん!
勇武を取り囲んでいた木の根に光る何かが刺さり、
その光る何かが
「んなっ!?」
「春木君をマークして正解だったわね」
声の方へと視線を向ける。
そこには――勇武と別れ帰路についたはずの五人、『お助け部』の面々が立っていた。
「皆さん帰ったんじゃ――!?」
「んー、ちょっと気になる事があってね。
みんなで帰ったフリをしたのよ。
――そこの鎧は気付いてたみたいだけど」
と鈴音がエリゴルを睨む。
「エリゴル!てめぇ気付いてやがったのか!」
「――フン、貴公も既に気付いていたと思っていたのだがな?」
先程の意趣返しかエリゴルが鼻で笑う。
「ぐぬぬぬ……まあいいさ。
まとめて捻り潰せばいいんだろうがぁ!」
突如大地が大きく揺らぐ。
それに呼応するかの様に地面から大量の人の形を模した木の根が這い出てきた。
「俺の
それが合図。
一斉に木偶人形がつくし達に襲い掛かってきた。
しかし勇武を除く五人は落ち着いた様子で歩いてくる。
「って、何落ち着いて歩いているんですか!?
なんか得体の知れないのが向かって――」
「春木さん、見ててください」
五人各々が『聖水晶』を手に持つ。
「これが――私の、私達の力です」
それぞれの『聖水晶』から光が放たれる。
そう勇武が『ソードオブソード』を具現化させた時と同じ光。
「
哉芽の左手に赤い穂先の槍が。
「竜爪『青龍』!」
鵬次の両腕に爪の付いた蒼い手甲が。
「
飛助の右手に白く反りのない刀が。
「
鈴音の左手に七つの宝玉が埋め込まれた緑の弓が。
「
つくしの右手に様々な色の宝玉をあしらった黒い杖が。
これが、これらが彼ら『騎士』の武器。
――それでも木偶人形達は迫りくる。
だがやはり落ち着いた様子で行動を開始する五人。
つくしが杖を地面に突き立てるとつくしの周囲に光り輝く壁が現れる。
それを確認するとつくしは目を閉じ、口を開く。
「風の聖霊よ――」
「天上の火よ――」
「聖なる守りよ――」
同時に複数聞こえるつくしの声。
「ほう……
並みの『騎士』ではないな、あの少女……」
エリゴルが感嘆の声を漏らす。
詠唱をしているつくしのすぐ近くで、
「どっせい!」
鵬次が前に出て右の拳を突き出す。
しかし拳は木偶人形に届いていない――のだが。
ごうん!
一陣の暴風が鵬次の目の前にいた木偶人形を吹き飛ばし、
さらにその後ろにいた木偶人形ともども巻き込み破壊した。
それに続いて飛び出したのは飛助。
木偶人形の群れを抜けるとすぐさま振り向き、
「コイツはおまけだ」
と無数の光輝く手裏剣を放ち、木偶人形に食らわせる。
同時に食らった木偶人形は光と共に爆ぜた。
哉芽は左手の槍で何体もの木偶人形を貫く。
「燃え上がれ蒼き炎よ!」
貫かれた木偶人形どもは瞬時に蒼い炎に包まれ消し炭となった。
蒼い炎を纏った槍を回転させ自分の肩に乗せる。
光の矢を番え狙いを定める鈴音。
「第一の星玉――」
その言葉と同時に弓の宝玉の一つが光り輝く。
そして、矢を放つ――
「駆けろ『
放たれた矢はまるで生きているかの様に突然木偶人形の横に回り込み、
一気に数体を貫き串刺しにする。
その後も暫く矢はオオカミの様に獲物を求め駆け回った。
「……凄い」
勇武は皆の戦い様を見て感心していた。
しかしそれは敵の付け入る隙である。
「呆けている場合か?」
その声のする方へ向いた時には――剣を振りかざしたエリゴルが目の前に居た。
「――っ!!」
すぐに防御しようと剣を構えようとするが、同時に相手の剣が振り下ろされる――。
間に合わない。
だが。
「皆を守れ!『
つくしの声が高らかに響く。
同時に『お助け部』全員に薄い膜のような白い光に包まれる。
ガキッ!と勇武に振り下ろされたエリゴルの剣は白い光に阻まれ、標的には届かなかった。
「防御魔法か――」
攻撃を弾かれ、素早く後退するエリゴル。すぐ近くにはオリアスもいる。
それを好機と見たつくしは、
「皆さん離れてください!」
と声をかけると同時に二つ目の詠唱を終えようとしていた。
「
『お助け部』の面々が木偶人形達から離れるや否や。
凄まじい勢いの風の壁が現れ、『魔神』二柱と木偶人形達をその中に閉じ込めた。
「はんっ!この程度のモン、すぐにぶち破ってやんよぉ!!!」
息巻いているオリアス。
一方のエリゴルはその様子を見て呆れていた。
(愚かな――最後の詠唱が終わっていないであろうに)
そうエリゴルが心中で呟くと同時に声が聞こえてくる。
三つ目の魔法の詠唱。
「燃え盛れ!『
只の風の壁であったモノは瞬く間に炎を取り込み、燃え盛る。
炎は意思を持つかのように木偶人形へ降り注ぎ炭へと変えていく。
オリアスは向かってくる炎を必死に避ける。
「俺の木偶人形がぁ!!こんなガキ共にぃ!!」
「フン、彼等を甘く見過ぎだなオリアス。
彼の者達は少年少女と言えども立派な『騎士』、と言うことだ」
「てめぇ!どっちの――!!」
オリアスの油断。
瞬時に炎はオリアスに纏わり付き、激しく燃え上がる。
「ああああああ!!畜生ぉぉぉぉ!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます