第二章 五月三日

 困ったな。早く宿題をやらないといけないのに。

 友達と遊んでいたら、もうこんな時間になっちゃった。

 そういえば、この前の宿題は「ゾウの絵を描くこと」だった。ゾウだって、見たことないのに。僕はいつも、困ったらまずはお母さんに相談している。ゾウのときは、「見たことあるわ。模型だけどね。それがとっても大きかったの!」と、白い紙の上でさらさらとペンで描いてくれた。耳が大きくて鼻の長い動物だった。僕はその絵を参考にゾウの絵を描いた。ちゃんと描けたねと先生に褒められたのを覚えている。

 またお母さんに相談しよう。もしかしたらクジラ、見たことあるかもしれない。そう思って階段を降りると、お母さんは夜ごはんを作り終え、使った道具を洗っているところだった。

「お母さん! また変な宿題を貰ったんだ」

「あら、大変ね。今度はどんな動物かしら?」

 あっという間に調理道具が片付いていく。僕の話を聞きながらも、お母さんの手は止まらないからすごい。

「クジラだって。さすがにお母さんも、クジラは見たことないよね?」

 そしてお母さんは頷いた。

「ごめんなさいね。クジラなんて、どこにいるのかしら」

「そっか……」

 クジラって、どこにいるんだろう。

 宿題の提出は今度の火曜日だから……って、今日もう土曜日じゃん。どうしよう。焦る。さすがに見たことないものは描けない。ここにいても、きっと描けない。よし、とりあえず、どこかへ行こう。さて、どこへ行こうか。うーん、クジラって、どこにいるんだろう……。

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