第一章 五月一日
いつもの調子で、先生は図工の授業でこう言った。
「さて皆さん、今回出す宿題は、クジラの絵を描くことです」
「えー。先生、クジラなんて、見たことありません!」
「僕も。クジラって、絵本に出てくる大きな生き物ですよね?」
生徒のみんなが、先生の出すクジラの絵の宿題に対して、口を揃えてブーブー言う。これはいつものことだ。先生はいつも少し難しいお題を出す。
「そうでしょう? 見たことある生き物を描くのも面白いけど、私は見たことのない生き物を描く方が好きなの」
「それは先生が好きなだけで、僕は見たことある生き物描く方が好きだもん!」
別の子が反論する。きっと、わからないものを描くのが面倒で嫌がっているだけ。でも、そういえば、僕らが見たことある生き物って、何だろうか。パッと思いついたのは、片手で数える程度しかなかった。
「だからこそ、皆さんの想像力が大事になってきます。どんなクジラを描くか、楽しみにしていますからね」
先生はとっても楽しそうだった。先生は、子どもが描く実物とは似つかない、想像で描いたものが好きなのだ。いつも、これが芸術なのよって言っているけど。僕にはそれが芸術なのかはよくわからない。そもそも、想像力でクジラを描けるほど、僕らの頭には材料が揃っていない。怪物を描いて見せたとしても、先生は怒ることはできないだろう。
みんなはまだブツブツ何か言っているけど、先生の耳には届いてないみたい。しょうがない。僕はクジラを描こう。クジラは昔テレビで薄らと見たことがあったような。ただ、その印象はとても粗い。これでは描けそうにないな。少し不安である。
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