Mission066: 雑談

 シュヴァルリト・グランとプロメテウス隊のAdvancerアドヴァンサー5機で護衛された“フィリス”は、一時的にゲルゼリアの僚艦となる運びとなった。

 Mがスチュアート大佐に打診し、最寄りの港に向かうまで護衛するのが目的だ。


 一応自力航行は可能であるものの、いざとなったら曳航えいこうしてでも港へ向かわせる。

 ただでさえサロメルデ王国軍の艦船は数を減らしつつあるため、これ以上の損害は避けたいという意思で、両者は合意した。


 そうと決まれば、Mは艦の整備部隊に、空中で接続しての補給や簡易的な修復を命じた。さらにはサロメルデ王国軍に対し、増援をも要請したのである。

 フェレー山へ睨みを利かせるための味方が到着するまでは、ゲルゼリアが盾となる必要があった。幸い時間としては3時間と、そこまで長くないものだ。


「接続完了!」


 ゲルゼリアとフィリスが接続し、連絡通路を形成する。

 Advancerアドヴァンサーに搭乗しない補給部隊も、流動的に動けるように講じた措置だ。


 もちろんAdvancerアドヴァンサー搭乗部隊――艦載のリクシアスに搭乗している整備部隊――もまた、フィリスの船体を修復しにかかる。

 武装した機体は、3、4機に1機というわずかな割合だ。プロメテウス隊より練度が劣るものの、いないよりはマシな護衛役である。


 さて、帝国軍が来ないというのもまた、なかなかに厄介な状況である。

 警戒態勢は続けているものの、人間の常として長時間の集中や緊張状態は反動が来るもの。その結果としてパトリックたちは、雑談を始めていた。


「やけに散発的な攻撃ばかりだが、帝国軍は周辺諸国に攻撃を仕掛けているのか?」

「どうだか。こう見えてもサロメルデ王国の戦線は広いから、案外手こずってるのかもしれねぇ」

「とは言え、俺たちに“六天将”が差し向けられている。それも一度や二度ではない」

「高脅威とは認識されているんでしょうけどね。一度にまとめて全部来ないのを見ると、案外“六天将”の連携は弱いのかも?」


 雑談とは言いつつも、プロメテウス隊の話題は戦いに関するものであった。Mの配下としていくつもの戦闘をくぐり抜けてきた彼らは、自然と口に出てしまう。

 そしてそれは、ゼルゲイドとアドレーネも同様であった。


「作業は順調みたいですね。こういうのは口に出したらマズい気もしますが、こうも順調すぎると嫌な予感がします」

「同感ですわ、ゼルゲイド様。私はただ座っているだけですが、このような戦いの気配も少しは分かるのです」


 実際アドレーネは、ゲルゼリア王国の王族としていくさにまつわる教育を受けている。また、このようにシュヴァルリト・グランの後席に座っていることで、間接的ではあるが戦場の感覚を掴んでいたのであった。


 その後もプロメテウス隊やゼルゲイドたちは、最低限の緊張と警戒は保ちつつも、いくらか力を抜いていた。

 敵も来ていないのに無駄に力を入れることはなく、それを利用して独自に休息を取る。隊長であるパトリックからの指示も無いのにこのようなことをしていては、通常の軍隊では罰か処分が下ってもおかしくはないのだが、独立した部隊であるプロメテウス隊他ゲルゼリア搭乗員には当てはまらないものであった。

 そもそもゲルゼリアにおける規律は必要最低限で、あとは戦果さえ出せば十分なのである。それでもまとまっているのは、ゲルゼリア再興という目的や、あるいはゲルゼリアの艦長にして総司令官であるMへの心酔や信頼ゆえであった。


 そうしている内に、増援到着の予定時間まで残り15分を迎えていた。


「このまま何事も無く終わってほしいぜ」

「そうですわね。私たちが狙われる身とはいえ、戦いは少ないに越したことはありませんから」


 ゼルゲイドとアドレーネの呟きは、しかしゲルゼリアのレーダー手によって打ち消されることになる。




『方位2-8-5(西北西)、敵機です! ッ、多い……!」

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