Mission065: 支援

 重巡洋艦“フィリス”のブリッジにて。


「フレイル7、撃墜! 残存艦載Advancerアドヴァンサー、3!」

「左舷光防壁、突破されました!」

「副砲、残り1基!」


 阿鼻叫喚の様相を呈していたブリッジ内の一段高い場所で、フィリス艦長であるスチュアート大佐は、覚悟を決めていた。


(これほどの損害、しかも僚艦は全滅……。もはや手段は総員退艦のみ、か。しかし、どうして前線から離れたここに……?)


 “フィリス”のいるフェレー山は、戦争状態にあるサロメルデ王国においても、後方と呼べる程度には戦線から離れていた場所であった。

 わざわざ迎撃される危険を冒してまで、強引な襲撃を仕掛ける帝国軍にどのような目的があるのか。


 スチュアート大佐は、一点だけ心当たりがあった。


(クライン結晶の産出地……それも国内有数の、だ。戦争において敵の資源を狙うのは当然だが、よりにもよってここか……。いや、後方で手薄だからこそ、逆にかれたのかもしれない)


 今さらになって、狙われた理由を察する。だが、既に状況は詰みに近かった。

 12機搭載していた艦載Advancerアドヴァンサーはいつの間にか最後の1機となっており、搭載している砲台は7割が使用不能になっていた。

 悪あがきを続けているが、それは艦体の耐久力がまだ持ちこたえてくれているからである。本来ならば総員退艦してもおかしくはない状況だった。

 そしてその最後の1機も、目の前でリクシアスに撃墜される。


 護衛機であるAdvancerアドヴァンサーを喪失した“フィリス”は、敵からすれば恰好の的だ。

 程なくしてリクシアス達に包囲される。


『貴船に通告する。抵抗をやめて投降せよ』


 その警告が届いた途端、スチュアート大佐が無線を繋ぐ。


「我が艦は降伏する。だが、私や機関要員以外の乗組員を脱出させてほしい」

『了解した。脱出艇は見逃そう……ぐあっ!?』


 突如として、リクシアスの1機が爆発四散する。

 そうさせたのは“フィリス”ではない。


「あ、あれは……!?」


 ブリッジクルーが、最大望遠で捉えた映像を見て驚愕する。

 リクシアスに、帝国に敵対的な黒騎士――その正体は、サロメルデ王国全土に伝わりつつあった。


「黒騎士だ! 救援に来てくれたぞ!」


 予想外の味方に、“フィリス”クルーは歓喜していた。




 遠方から向かってきていたシュヴァルリト・グランは、右肩に搭載しているビームライフルを下げつつ、両腰に装備した大剣を抜刀する。


「案の定か! あの様子じゃ、Advancerアドヴァンサーも全滅してるっぽいな……」

「ですが、艦の救援はぎりぎり間に合いそうですわ。ゼルゲイド様」

「承知しております。全力を尽くしましょう」


 “フィリス”を守りリクシアスを蹴散らすように、シュヴァルリト・グランの巨体が突っ込む。

 突如として現れた敵の急襲に、リクシアスたちは艦への包囲を解かざるを得なかった。


「そこだ!」


 しかしバラバラに飛んだ隙を見逃すほど、ゼルゲイドは甘いパイロットではない。

 加速しつつ高度を稼ぐと、アサルトライフルを構えていたリクシアスを一刀両断した。


「こいつ……強い!」

「例の“黒騎士”だ! 各機、油断するな!」


 当然、シュヴァルリト・グランの存在もベルゼード帝国に伝わっている。

 何機かいたゲルゼリアの艦載機の中でも、大きさと戦果の二点で、特に高い脅威レベルを与えられていたのだ。


 帝国兵は接近戦を危険と判断し、距離を取ってひたすら射撃する作戦を取った。

 判断自体は正しいものである。何せ接近戦に長けた“六天将”エルンですら、二度も撤退を余儀なくされたのだから。


 しかし結果として、“フィリス”が逃げる隙を与えてしまった。

 さらに後続のプロメテウス隊が、帝国軍のリクシアスに搭載されたレーダーにすら捉えられる程に接近している。

 これだけでも最悪の状況だが、まだもう一点、残っていた。


「逃がすか!」


 それはシュヴァルリト・グランの装甲と加速性能を見誤った、というものだ。

 多少76.2mm弾を浴びようとびくともせず、逆に自信を鉄鎚てっついにする勢いで迫ってくる様は、帝国軍のリクシアスに乗っていたパイロットたちに死を予感させる。


 一番近くにいたリクシアスから順番に切り伏せられ、あるいは押し潰された上でビーム砲を浴びていく。

 わずか8機のリクシアスは、シュヴァルリト・グランの暴威を止められずに全滅したのであった。


「加勢する……って、もう終わっていたか」


 と、パトリックの乗っているグリンドリンから通信が来た。


「はい、敵は殲滅せんめつしました。“フィリス”の救護を願います」




 ゼルゲイドはそれだけ言い残し、自身もプロメテウス隊に合流するのであった。

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