Mission064: 要請

 艦載機を王立兵器工廠に贈与してから25時間後。


「そろそろ頃合いだな」


 作業もひと段落し、休息も十分に取ったMたちは、ゲルゼリアを発進させる態勢に移行していた。

 元々機体を贈与することだけが目的であったため、その作業さえ完了すれば航行を再開する予定であった。“アルジェンティス”の進捗状況の確認や休息は、あくまでもついでに過ぎない。


 こうして休息を得られたのも、ゲルゼリアを“ベルゼード帝国の重大な脅威”と認識させたMの策略であった。それだけにとどまらず、わずかではあるが戦線を押し返した影響もあって、ベルゼード帝国はメイディアへの侵攻をためらっていたのである。

 神出鬼没を体現するかのごとく、気まぐれに現れては帝国軍を壊滅させる。加えてAdvancerアドヴァンサーや飛翔艦の保有する対艦兵装は、ことごとくが通じない。小型・中型艦ばかりとはいえ、そこそこ規模の大きな艦隊を単艦で返り討ちにしたのだから、ゲルゼリアは実際、帝国にとって正しく“重大な脅威”であった。


(ゲルゼリアの存在と脅威を知ってもらった以上、帝国がうかつに戦線を前に押し出すことはあるまい。次はこちらから仕掛ける恰好になるだろうな……)


 順調に発進作業を進めるゲルゼリア。

 と、突如として緊急の無線が流れてきた。


『こちら重巡洋艦フィリス。現在我が艦はフェレー山上空で、ベルゼード帝国の猛攻撃を受けている! 至急増援を要請する! 繰り返す、こちら重巡洋艦フィリス! 現在我が艦はフェレー山上空で、ベルゼード帝国の猛攻撃を……』


 それを聞いたMは、即決する。

 無線機を掴むと、艦全域に通達した。


『これより本艦は、発進作業が終わり次第フェレー山上空へと急行する。Advancerアドヴァンサーパイロットを除く戦闘要員は、ただちに配置につけ! Advancerアドヴァンサー』パイロットは至急、作戦会議室へと集合せよ。繰り返す……』


 命令事項の伝達を終えたMは、自身もまた作戦会議室へと向かったのであった。


     *


「諸君、そろっているな」


 それから数分後。

 ゼルゲイドにアドレーネ、そしてプロメテウス隊は、Mよりも先に来ていた。


「状況は救援要請を聞いての通りだ。我々はただちに、フェレー山上空へと向かう。……だが」


 Mは光の地図を展開し、ゲルゼリアの現在位置と目的地フェレー山を示す。


「見ての通り、ここからフェレー山まではかなりの距離がある。本来であれば、UAVを展開させて偵察させるところだ。しかし、無線の様子から察するに、事態は急を要するものと思われる。ゲルゼリアで向かっても、間に合う保証がない。そこで速力に優れている、君たちAdvancerアドヴァンサー部隊に威力偵察をお願いしたい」

「行きます。行かせてください」


 ゼルゲイドは即答で、志願する。


「ゼルゲイド様が行かれるのでしたら、当然私もお供いたします」

「かしこまりました。志願されている以上、ゼルゲイド様にアドレーネ様が行かれるのは確定としましょう。……さて、プロメテウス隊諸君はどうするか」


 Mの問いかけに、パトリックとデュランが答える。


「行くに決まっているだろう、M。わざわざ確認するまでもないさ」

「ああ。それに、ゼル……エクスカリバーは、放っておけねえからな。単機で対処できる限界を超えた数でも、突っ込むかもしれねえしよ」


 パトリックとデュランの返答を聞いたMは、エルトとラファエルを見る。二人とも、首を縦に振っていた。


「ならば決まりだな。エクスカリバー、並びにプロメテウス隊諸君。ただちに発艦し、先行してフェレー山上空へと向かえ。敵の規模を報告せよ。対処可能なら敵機への攻撃を任意で行って構わないが、本艦が合流するまで無茶はするな」

「「了解!」」


 ゼルゲイドたちは足早に、格納庫へと向かっていく。




 ゲルゼリアが発進するよりも先に、5機のAdvancerアドヴァンサーはフェレー山へと向かっていったのであった。

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