Mission063: 任命

 葵は素早く、メイナードに敬礼する。


「お久しぶりです。陛下」

「久しぶりだな。楽にせよ」


 メイナードの一言で、葵は敬礼をやめた。


「さて。私が来たのは、ある通達をするためだ」

「通達……しかし、私はいまだ左遷中の身。何かの間違いでは?」

「いや、間違いではない。お前の左遷を解くのも、通達の項目に含まれている」

「それは、どういう……」


 困惑する葵。

 と、1台のトラックが工廠前に停車した。


「あれは?」

「着いたか。単刀直入に言おう」


 トラックからは、サロメルデ王国軍の制服を着た7人の兵士が降りてきた。


「お前の部下たちだ。これよりお前を……いや諸君を、王立兵器工廠独立新型機実験部隊“オラージュ”の隊員として任命する。当然、お前の左遷は取りやめだ。そして同時に、階級も少佐となる。これにより、お前は本日をもって王立兵器工廠……つまりは、メイディアに復帰する運びとなる話だ。この頼み、受けてくれるか」


 7人の兵士たちは、皆一様に右ひざを曲げてしゃがむ礼の姿勢を取る。

 葵は一瞬逡巡しゅんじゅんしたが、結論を決めた。


「もちろん、拝命致します。国王陛下」


 同様に礼の姿勢を取り、承諾の意を示す。

 メイナードは満足そうに、“オラージュ”の隊員たちを、葵を見た。


「感謝する。サロメルデ王国奪還のため…………」


 メイナードが一瞬言葉を止め、Mをちらりと見る。


「頼むぞ」


 そして、最後の一言を伝えた。

 いつの間にか、天気雨は晴れていた。




「めでたいものだな。メイナード」

「お前の要望だろう、M」


 オラージュ隊の新設が終わるや否や、Mがメイナードに話しかける。


「ともあれ、戦力の増強につながったことには変わりはない」

「ああ。機体あれらと、整備用のデータも一緒に送っている。“アルジェンティス”が揃うまでは、鹵獲ろかく機や我々の機体を使ってもらいたい」

「無論だ。財力面はともかく、リクシアスやグリンドリンは我が国では貴重な第5世代機。量産体制が整うまでは、我々王国は自力で第5世代機を獲得せねばならんからな」


 メイナードが見る先には、頭部を失ったリクシアスがあった。このような比較的損傷の少ない機体は、王国機の機体色である暗緑色にリペイントされ、かつ王国の紋章を新たにえがかれた上で使用される運命である。


「それで、この後はどうするつもりだ? M」

「もう少しとどまる予定だ。“アルジェンティス”の開発における進捗状況を、見ておきたいのもある」

「なるほどな」

「お前はどうするのだ、メイナード」

「公務だ。すぐ後にな。またベルゼードがここメイディアを侵略しに来ない限り、離れることはできん」


 それだけ言うと、メイナードは王城へ戻ろうとする。と、ゼルゲイドを見つけた。


「ゼルゲイドくんか。相変わらず、活躍しているようだな」

「はい」


 ゼルゲイドは慌てて礼の姿勢を取ろうとするが、メイナードは手で制する。


「いや、いい。楽にしてくれ。わが友人であるMを、よく支えてほしい」

「もちろんです。俺の力、存分に役立ててきましょう」

「頼むぞ。あれでMとはかなりの付き合いだ。今までに、何度となく助けられたからな。そして、アドレーネ姫殿下」

「はい」

「彼と……ゼルゲイドくんとともに、ゲルゼリア王国の復興を成し遂げていただきたい。あの美しき国を、取り戻してほしい」

「もちろんですわ、メイナード陛下。私たちの悲願ですもの、何年、いえ何十年とかかっても、必ず成し遂げてみせます」


 告げるアドレーネ。見た目の可愛さとは裏腹に、言葉は力強かった。


「その言葉を聞いて、安心した。では、失礼しよう。頼まれた義理は果たしたからな」


 メイナードは王家専用車へと向かっていく。簡単な挨拶を済ませると、そのまま乗って王宮へと戻っていった。

 それを見たMが、呟く。


「義理……か。確かに、果たさなければな」




 進行するAdvancerアドヴァンサー搬入作業を横目に、Mは真剣な表情を浮かべていたのであった。

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