Mission062: 意識

「死んだはずの人が……生きていた?」


 相反する内容の話に、ゼルゲイドは再び戸惑った。

 と、そこにマルスリーヌが割って入る。


「ゼルゲイド様。その表現は、少し違います。彼の幼馴染は……つかさは、肉体的には死亡しています。この事実は変わりません」


 苦々しげに事実を伝えるマルスリーヌ。詞は彼女の弟子であり、死別はえられないものであった。


「……ですが、王都襲撃の直前。彼女の意識の転写を、何とか完了させられました。ゆえに彼女は、精神的には“生きている”のです」

「意識の転写? どうやって……」

「機体を……ゼフィールを構成するパーツの一部に、詞から採取した脳脊髄液のうせきずいえきと遺伝子を組み込んだ生体部品を使いました。反応炉を心臓代わりとして、ゼフィールに意識を宿したのです」

「そんなことが……」


 出来るのか、と言おうとして、ゼルゲイドは思いとどまった。マルスリーヌの役職を思い出したのである。


「そうして、詞はゼフィールの一部として生き返りました。これからは、Advancerアドヴァンサーとして生を受ける。そう、彼女が望んだのです」

「ありがとうございます。マルスリーヌ……博士」

「“マルスリーヌ”で構いませんよ。クルーガー大尉」


 マルスリーヌは、頬をほんのり赤く染めていた。


「……あらあら」

「どうされましたか、アドレーネ様?」

「いえ、なんでもありませんわ。こほん、私たちはそろそろおいとましても良いのですが……他に用事がある方がいらっしゃるようですわね」


 意味ありげに笑いながら、アドレーネは工廠の外を見る。


「用事……ん、何やってんだ? あれ、ゲルゼリアのリクシアスやグリンドリンじゃ……」

「Mの命令ですわね。聞こえた話によると、『機体の補充』だそうですが……。ゲルゼリアに載せていた機体では、補充どころか更新ですわ」


 ゲルゼリアの艦載機は、帝国にある通常型よりも総合性能が強化されている。王都防衛線の折に鹵獲ろかくした一般機種は既に工廠や王都防衛隊に回されたものの、さらにその上を行く機体が駐留機として配備されたのだ。


 さらに、驚くべき出来事が続く。


「国王陛下のおなーりー!」


 突如として、声が響く。

 ゼルゲイドたちが振り向けば、王家の紋章が描かれた専用車が工廠に来ていたのだ。


「陛下が……? いったい、どうして……」

「私の指示ですな」

「Mか!」


 ゼルゲイドがMを見ると、笑みを浮かべていた。


「やけに嬉しそうだな?」

「サロメルデ王国の精鋭部隊設立に立ち会えるのです。嬉しくもなります」

「部隊設立? あんたが仕組んだのか、M?」

「はい。“持ちつ持たれつ”ですから」


 Mは再び、王家専用車の方向を見る。




 そこでは、メイナードが葵と向き合っていた。

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