Mission061: 博士

 一足先に工廠こうしょうへ向かったマルスリーヌたちに続き、Mたちも向かっていた。

 Mやゼルゲイド、アドレーネを乗せた自動車が到着したとき、既に葵は赤と白の機体に乗り込んでいたのである。


「追いついた……。って、あの機体は?」

「赤と白のツートンカラーですね、ゼルゲイド様。サロメルデ王国のアルガムとは、ずいぶんと違って見えますわ……」

「あれはマルスリーヌたち王立兵器工廠こうしょうが作った機体ですな。いや、“改良した”と言うべきか」


 未知の機体に驚愕するゼルゲイドとアドレーネをよそに、Mは興味深げに呟く。

 やがて、機体の前で立っているマルスリーヌを見つけた。


「いたか」

「はっ。M様」


 上下関係はあるものの、それなりに長い交流を有していると思わせる間柄に、ゼルゲイドは戸惑っていた。


「アドレーネ様。あの人は、いったい……?」

「ゼルゲイド様はご存知なかったのでしたね。彼女の名前は、マルスリーヌ・ルノアール。サロメルデ王国の天才科学者ですわ」

「マルスリーヌ・ルノアール……」


 情報を整理するように、ゼルゲイドは伝えられた名前を反芻はんすうする。


「もっとも、サロメルデ王国の天才と申しましても……彼女の出身は、ゲルゼリア王国ですが」

「ゲルゼリア……王国」


 ゲルゼリア王国。今や“かつて存在した”国家となっているが、そのような事件が起きたのは、実はそこまで昔の話ではない。現在18歳であるゼルゲイドが生まれた時点では、まだゲルゼリア王国は存在していたのだ。それから1~2年後に、ベルゼード帝国によるクーデターが起こったのである。


 と、マルスリーヌはゼルゲイドを見て、一礼する。


「“黒騎士”のご子息である、ゼルゲイド・アルシアス様ですね。サロメルデ王立兵器工廠所長のマルスリーヌ・ルノアールと申します」

「初めまして、マルスリーヌさん。ゼルゲイドです」


 ゼルゲイドもまた、礼を返す。

 と、アドレーネもマルスリーヌに一礼した。


「そして、アドレーネ様も。ご無沙汰しております」

「ご無沙汰しております。マルスリーヌ博士。新型機の開発は、順調でしょうか?」

「はい。新型機に搭載する防御システムの開発を除いては、ですが」

「期待しております。王国を取り戻すための、大切な過程ですので」


 アドレーネは再び一礼し、ゼルゲイドに話しかけた。


「ゼルゲイド様。彼女は私たちが乗るシュヴァルリト・グランの改良にも関わったお方ですわ」

「彼女が……? そういえば、シュヴァルリト・グランは元々第3世代機だったような……」

「その通りです。“黒騎士”……貴方の父上である、ヴィルフリート様の機体を改良したり、時には知識を提供しました」


 意外な協力者の存在に、ゼルゲイドは目を見開く。


(父さんの、協力者……ここにも、いたのか。そういえば、俺がまだ小さい頃に何度か見たような……)


 過去の記憶から、マルスリーヌに関わる事柄を探るゼルゲイド。

 それを、Advancerアドヴァンサーの胸部装甲を開放する音が遮った。


つかさは……俺の幼馴染は、確かに……Advancerアドヴァンサーの中で、確かに生きていました。博士」




 仰向けの体勢であるAdvancerアドヴァンサー、“ゼフィール”から降りた葵は、一筋の涙を流していた。

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