Mission060: 快癒

 アドレーネが告げた直後。光が、部屋にいる全員を包み込んでいた。


「これは――」

「おお――」

「何て、眩しい――」


 あまりに眩しいそれは直視できず、葵とアドレーネ以外の誰もが腕や手を覆っていた。

 しかし、直視しているはずの葵とアドレーネに――実は、この部屋にいる誰もがなのだが――目を痛めた様子は無い。


 アドレーネは、目の前の光に集中していた。


「美しき希望の光。煌々こうこうと輝くは、生きるにおいて欠くべからざるもの。ゆえにこそ私は、育て、正しく導く。さあ、葵・クルーガーの心に満ちあふれよ!」


 告げた言葉と同時に、葵の両手が強く輝く。光はしばらく葵の両手を包み込んでいたが、やがて弾けるように消滅した。


「終わった……のか?」


 葵がほうけるように呟くと、アドレーネは頷いた。


「はい。これで貴方の希望は、保たれました。お手を」


 アドレーネに促された葵は、ゴクリと唾を飲み込む。そして意を決し、両手を軽く動かした。


「あれ? 動くぞ。ついさっきまで、全く動かせなかったのに」

「包帯を、ほどいていただけますか」

「あ、ああ……。だが、多分包帯の下は見てられないありさまになっているかもしれないぞ?」

「構いません」


 そこまで言われた葵は、仕方なくといった様子で、右手の包帯をほどく。包帯の下には――何事もない葵の右手が、あった。


「えっ……?」

「うふふ。私の言った通りでしょう?」


 驚愕する葵と、微笑むアドレーネ。

 と、マルスリーヌが葵に近寄り、右手を見た。


「嘘……でしょう? 酷い火傷が、こんなにもあっさり……。骨まで露出していたはずなのに、どうして……?」


 葵とマルスリーヌは、信じられないといった様子で葵の右手を見つめる。何度見ても、健康的な手そのものであった。


「信じられない……。そうだ、左手は?」


 葵はゆっくりと、左手に巻かれた包帯をほどいていく。やはり、健康的な状態であった。


「何だ、これ……。アドレーネさん、貴女はいったい……?」

「うふふっ。私はゲルゼリア王国の代表ですわ。それ以上でも、以下でもありません」


 にこやかに微笑み、葵の疑問をはぐらかすアドレーネ。

 と、マルスリーヌが切り出した。


「クルーガー大尉。立てますか?」

「はい」


 葵は何の支障も無く立ち上がる。マルスリーヌは、葵についてくるよう促した。


「お見せしたいものがあります。王立兵器工廠こうしょうにあるアルガム改二かいに……いえ、“ゼフィール”でしたね。病み上がりで申し訳ありませんが、両手が治った以上、乗っていただきます」


 それだけ言うと、一礼して部屋を後にする。葵は一瞬戸惑っていたが、マルスリーヌ同様に一礼した。


「では、失礼します。……そうだ、アドレーネ様」

「何でしょうか」

「私の両手を治していただき、ありがとうございました」

「礼には及びません。なすべきことをなした、それだけの話ですので」


 アドレーネが答えたのを聞き届けた葵は、マルスリーヌに続いて退室する。


「では、私たちも参りましょう。アドレーネ様」




 Mもまた、ゼルゲイドとアドレーネに工廠へ向かうよう促したのであった。

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