Mission059: 激情

 突然のゼルゲイドの激昂に、アドレーネとマルスリーヌが驚く。

 ゼルゲイドは構わず、思いのたけをぶつけていた。


「どんな汚名を背負っても、めげずに立ち向かっていた。父さんからの伝え聞きだけど、僻地へきち左遷させんされても、腕を磨いていると。不屈の闘志で立ち向かった“閃光のクルーガー”は、あんたじゃないのか!?」

「黙れ!」


 ここに来て、初めて葵が怒鳴り返した。ゼルゲイドは一瞬怯むが、葵の言葉を真正面から受け止めるために、向き直る。


「何も知らないくせに、偉そうに言ってんじゃねぇ! 『諦めるな』だと!? お前に、俺の気持ちの何が分かるってんだ! 目の前で、俺の大切な人が死んだ! 俺が何も出来ない間に、あいつは……! 燃えているAdvancerアドヴァンサーから助け出した、そのときにはもう手遅れだったんだ! 分かるか!? この気持ちが!」


 ゼルゲイドはすぐには言い返さず、心の中で葵の言葉を反芻はんすうする。


(目の前で何も出来ず、か……。俺だって、おんなじように苦しんださ。一時期は、荒れたこともあった。だが、あんたまで俺のような辛い気持ちにはなってほしくない。同じ経験をした俺は、そんな様子を見てられないんだ……)


 自身の感情を整理したゼルゲイドは、改めて葵に告げる。


「分かるさ。俺も、父さんを病気で失った」

「!」


 葵が怒りを忘れ、ゼルゲイドを見つめる。


「貴方の幼馴染とは違う死に方だけど、『何も出来ないまま死んでいった』のは同じだよ。父さんは、病気でみるみるうちに弱っていった。薬も効かず、ただベッドの上で死を待つだけの日々だった。多分、そのときの俺は、貴方と同じ気持ちだったよ」

「……」


 葵は再び、沈黙に戻る。

 しばしの間をおいて、再び切り出した。


「先ほどは失言だった。謝ろう」

「俺こそ、申し訳ありません」


 お互いに取り乱したことを謝る二人。

 一度深呼吸を挟み、葵は続きを話しだした。


「けど、目の前であいつが死んだのは、今でも鮮明に覚えてるよ。手がこんなになるまで火傷しちまってさ、それでも助け出せなかった。それでも、そうまでして……助けだしたかったんだ」


 葵の目に、涙がにじみ始める。


「ははっ、笑っちまうよな……。“閃光のクルーガー”なんて呼ばれた男が、大切な人を助け出せず、Advancerアドヴァンサーを飛ぶために必要な両手まで失うなんて……。結局、残ったのは無意味な通り名だけだ」

「それは違いますわ。クルーガー様」


 と、これまで事態を見続けていたアドレーネが前に出た。


「アドレーネさん……?」

「貴方は何も失っておりません。貴方にはまだ、『戦いたい』という意思が残っております」


 アドレーネはしゃがみ、「失礼いたします」と告げてから葵の両手に触れる。

 そして、声高らかに告げた。




「私は希望の力をつかさどる者。今より、葵・クルーガーの心にる“希望”を育てます」

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