Mission057: 画策

「パイロット……か」


 マルスリーヌの報告を聞いたMは、ある事を思い付く。


「確か王都襲撃を生き延びた兵に、高名なエースパイロットがいると聞いた。彼の力を仰ぐとしようか」


 Mは執務室を離れ、艦長席へと向かう。

 着席するやいなや、ただちに艦全域へ放送を流した。


「諸君。我々はサロメルデ王国の戦力増強のため、この場を引き払って王都メイディアへ向かう」

「「了解!」」

「まずは補給基地を焼き払う。帝国に再使用させるわけにはいかないのでな。副砲、用意」


 Mの命令で、ゲルゼリアの副砲のいくつかがエゾン補給基地に砲口を向ける。


「放て」


 続けて、号令が告げられる。間髪入れず、副砲が次々と実弾やビーム砲を撃ちはなった。

 大規模基地とはいえ陸上施設に向けるにはあまりにも過剰な火力が、次々と施設を鉄くずに、あるいは無に帰す。たった一度の、それも一部の副砲の斉射だけで、エゾン補給基地は原型をとどめていなかったのである。


「これで良し。行くぞ」


 白き巨鯨きょげいは、メイディアへと艦首を向けて進み始めた。


「副長、後は任せる。二人ほど連絡を取る相手がいるからな」

「了解しました」


 そしてMは副長に後を任せ、艦長室へと戻ったのであった。


     *


 その後、妨害や奇襲といった攻撃を受けなかったゲルゼリアは、再びメイディアにたどり着いた。

 以前と同様に、艦を着陸・係留させる。


「係留成功!」

「下船準備。Advancerアドヴァンサーを運び出すかもしれん、整備隊に連絡」

「はっ」


 Mは指示を下し終えると、メイディアの空を見つめる。


「天気雨か……」

「どうしました?」

「いや、少し気になっただけだ。私も、降りるとしよう。車を用意してくれ」


 気持ちを切り替え、下船に向かうM。

 そこに、ゼルゲイドとアドレーネが合流した。


「M。急にメイディアに逆戻りなんて、どういうつもりだ?」

「ゼルゲイド様。新型機に関して、急用が出来たのです」

「ゲルゼリアに乗ったままじゃ、出来ないのか?」

「はい。Advancerアドヴァンサーを受け渡す予定もありまして」


 そこまで言われて、ゼルゲイドは得心する。


「なるほど。そういう理由なら、確かに一度戻らないといけないな」

「それだけではありません。ゼルゲイド様、そしてアドレーネ様。お二人は私と一緒に、来ていただきます」

「どこだ?」

「病院です。王城の、ね」


 Mは一方的に告げ、二人を車両に同乗させる。

 運転手に「頼むぞ」と告げて、病院へと向かった。




「こちらです」

「ご苦労。ありがとう」


 病院に到着するや否や、三人は病室へ向かう。目的地まではMが先導し、一直線に向かった。


「この部屋か。参りましょう、お二方」


 Mが淡々と部屋をノックする傍ら、ゼルゲイドは緊張していた。




 部屋の表札には、「711号室 あおい・クルーガー大尉」と記されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る