Mission054: 8658(その5)
「はいよ。ゲルゼリア王国の内乱から、だな。それが起きた当時は、俺たちも大混乱だったよ。王国の外れも外れにあった第8658懲罰部隊にさえも即座に伝わったんだから、どれほどヤバいもんだったか。実際はヤバいどころじゃないけどな」
パトリックは天を仰ぎながら、呟く。
「んで、また駆り出されたわけだ。内乱鎮圧にな。けど、王国は混乱状態。同士討ちまであった。そして、俺たちにとっての“その時”はいよいよ来た」
「“その時”……ですか?」
「ああ。ゲルゼリアがやってきて、俺たちの進路を塞いだ。そして一緒に来るよう誘ってきたんだ。Mが、ね」
「Mが……?」
ゼルゲイドの疑問に、パトリックが頷く。
「ああ。『必ず迎えにくる』という言葉の意味をその時悟ったよ。同時に、『君たちの確かな腕が必要だ』……と言っていたのも、今でも覚えている。俺たち4人は半信半疑だったが、一度は信じてみることにしたんだ。だから、同行を決めた」
「随分あっさりと決めましたね?」
「俺たちの進路をわざわざ塞いだってことは、乗っているのが俺たちだと分かった上で誘ったんだろう。後でMから聞いた話だが、どうやら君の父さんが俺たちの話をしていてね。ピンポイントで俺たちだけを誘った理由が分かったよ」
当時を懐かしむように、パトリックは話す。
「結果的に、おかげでクソッタレな場所からは逃げられた。君たちも知るように、ここの待遇はとても良くてな。当時からすれば、まさに天国って感じだったよ。しばらく出撃も無かったし、ゆっくり羽根を伸ばせた。強いて言えば、腕がなまらないか心配にはなったかな。とまあ、これでクソッタレ懲罰部隊時代の話は終わりだ」
パトリックは椅子にもたれるように座る。と、「いつつ……」と痛みを訴えた。
「大丈夫ですか!?」
「ああ、大したことないさ。けど、今日はもう飲めないな。医務室行くか」
手を押さえながら、ゆっくりとバーを後にする。
パトリックは去り際に振り向き、心情を伝えた。
「初めてこの話を誰かに話したよ。いずれ、もっと詳しい話をしてもいいかな……なんて思えたのは、君があの人の息子だからかな」
それだけ告げると、今度こそ医務室に向かったのである。
「父さん……そんなひどい場所にいたんだな。また聞いてみたいけど、今はこれでいいか。行きましょう、アドレーネ様」
「はい、ゼルゲイド様」
ゼルゲイドとアドレーネもまた、バーを去ったのであった。
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