Mission053: 8658(その4)

「父さんに、何があったんですか?」


 ゼルゲイドの問いかけに、パトリックはまずため息を返す。


「はぁ…………。あれは味方もろともなクソ司令部の艦砲射撃に次いで、思い出したくねぇもんだったぜ。まぁいいや。サロメルデ王国に攻撃を仕掛けていた時の話だよ。当然のように最前線で、また督戦隊とくせんたいがいた。クソ艦砲射撃の時よか少ない数だったけどな。んで、いつも通り攻撃を仕掛けたわけだ。そうしたら……どういうわけか、督戦隊とくせんたいの機体が爆散した。今思えば、それが狼煙のろしだった」


 今思い出してもあれにはビビるぜ。パトリックはそうごちる。


督戦隊とくせんたいが撃墜された……なら、逃げるチャンスだったんじゃ?」

「ゼルゲイド君、その疑問はもっともだ。けどな、俺たちは逃げだそうって気持ちよりも、何が起きたか驚いてたな。あんなクソッタレな場所でも、人間ってのは不思議と慣れちまう生き物だ。誰一人、逃げるつもりは無かったぜ。ま、逃げる余裕すら無くなっていたがな」

「余裕すら……無くなった?」


 妙な言い回しに、ゼルゲイドは首をかしげる。


「ああ。俺たちは君の父さんとはあっという間に分断され、武装の投棄を強いられていた。気づいた頃には……君の父さんは、連れ去られていたよ。サロメルデ王国にな」

「けど……俺の父さんは、生きていましたよ?」

「だろうな。今にして思えば、やけに不自然だった。督戦隊とくせんたいは一瞬で殲滅せんめつさせたのに、俺たちだけは殺さなかった。君の父さんが連れ去られた後、俺たちは生きたまま戻ったよ。ま、難癖付けられて独房に放り込まれたけど」

「滅茶苦茶ですね」

「ああ。それが8658部隊での日常だったよ。俺はもうあんな思いはしたくないし、君たちにも味わってほしくないな」


 パトリックは再びため息をつきながら、話を続けた。


「それからは相変わらずの任務暮らしだった。数ヶ月くらいは、特に何も変わらなかった。退屈な日々だったと同時に、サロメルデ王国軍に投降すべきかと後悔したんだよ。けど、君の父さんが連れ去られたときに、敵の隊長から言われたことがあった。『必ず迎えに来る。そう、言伝を預かっている』とね。その意味が分かったのは、ベルゼード帝国……いや、まだぎりぎりゲルゼリア王国だった頃だったな。内乱が起きたんだ」

「ッ……」


 “内乱”という言葉を聞いたアドレーネが、唇を噛みしめる。


「今度は姫様に酷となる話になりますね」


 止めますか、と言おうとするのを、アドレーネが止めた。


「いえ……続けてくださいませ。私はあくまでも付き添いですので、決定権はゼルゲイド様にございます」

「アドレーネ様……」

「ゼルゲイド様、私のことはお気になさらず。それにこの話は、貴方のお父様にも関わりがある話。聞くべきでは、ありませんか?」


 そう諭されたゼルゲイドは、しばし逡巡する。

 やがて、決断を下した。




「……分かりました。パトリックさん、続きをお願いします」

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