Mission052: 8658(その3)

「その時の俺は、君の父さんを哀れに思った。けど、不躾だけど……『何でこんな肥溜めに放り込まれたんだ?』とも思ったさ。だから、聞いてみたんだよ。どういう罪状でここに来たのか、ってな」

「なるほど……。それで父さんは、何と答えたんでしょうか?」

「『自らの責任だ。ただ、悔いるのみ』って言ってたよ」

「ッ!」


 パトリックの言葉だけで、ゼルゲイドは真意を察した。


(父さん……まさか、母さんを救おうとした……? けど、他にも方法があるはずじゃ……)

「どうした、ゼルゲイド君?」

「いえ、何でもありません。少し、考えていたので……」

「無理もないな。君の父さんの話だ。いろいろ考えるのは自然だろう」


 パトリックは深呼吸を挟んで、さらに話を続ける。


「君の父さんは8658へ放り込まれた翌日から、出撃命令を下されていた。後で聞いて分かった話だが、“黒騎士”と呼ばれる高名なエースパイロットだった事を知った当時は驚いたよ。もっとも、それよりも前から、彼の武勇は目に見えた。ひときわ大きな機体で、次々と敵を葬り、一人の戦死者も出さなかった。俺は思ったよ。『ああ、この人こそが、俺たちを守ってくれるのかもしれない』ってな」

「父さんは……普段は、どんな感じで過ごしていたんですか?」

「いつも一人だった。たまに飲みに誘うと応じてくれたくらいかな。とにかく“孤高”という言葉がぴったりの生活態度だった。態度も模範的で、反抗や脱走の試みは、俺が知る限りだとまったく無かった」


 いつの間にか、パトリックの怒りが収まっていた。

 先ほどとは一転して、嬉しそうに語る。


「とは言っても、デュランあたりは最初は反発していた。君の父さんほどの人物であっても、妬む奴はいるもんだ。けど彼は、文句ひとつ言わなかった。何を言われても淡々としていたし、何度もデュランの窮地を助けたよ。最初こそ『当て付けか!』っていう具合に逆効果だったけど、少しずつ軟化していったな」

「父さん……その頃からずっと、言葉だけでなく行動で、在り方を示していたんですね」

「ああ。男が惚れる男、ってやつさ。いつの間にか俺は副隊長的ポジションで、彼が実質的な隊長みたいになってたけどさ……不思議と、居心地が良かったんだ。俺は本心じゃ、この人の副隊長やりたかったんだろうな。けど」


 パトリックは再び、表情を暗くする。




「俺にとって最高の日は、そう長くは続かなかったんだよ。ある任務で、隊長は……君の父さんは、行方不明になっちまったんだ」

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