Mission051: 8658(その2)

「機体ごと、ですか……」

「ああ。だが俺は、元とはいえ副隊長だったからな。あいつらが来たと同時に、グリンドリンをあてがわれた。中古品だったが、それでもあんなクソの溜まり場としてはマシな待遇だったよ」


 手にしたグラスを、乱暴に叩きつけるパトリック。

 ゼルゲイドとアドレーネが驚愕するのも構わず、話を続けた。


「俺たちはいつの間にか、行動を共にしていた。出撃させられたときも、小隊を組んでいた。最初は俺達4人だけで集まってたのが、出撃のたび規模が増えた。俺の指示は信用されたらしくてな、自然と部隊長みてえな立ち位置になってたよ。こんなとこでも、必要とされてる……そう充実感を得つつあったそんな時、史上最悪にクソッタレな命令が下された」

「それは……どういう命令、なんですか?」


 恐る恐る、ゼルゲイドが尋ねる。

 するとパトリックは、我慢の限界と言わんばかりに、握っていたコップを破砕した。


「……ひっ!」

「つっ! わりいな。けどよ……あれは、あれだけは、今でも許せねえ。クソッタレな場所にいたことそのものもムカつくが、その中でも極めつけのクソだぜ」


 パトリックは手のひらから血を流すのも構わず、話し続ける。


「俺たちは、サロメルデとは別の国家が保有する艦隊にぶつけられた。その時は、いつも通りの捨て駒だと思ったさ。妙だったのは、いつもはいない督戦隊とくせんたいが俺たちの背後にいたことだった」


 今にも爆発しそうな怒りを押し殺している声で、パトリックが話しだす。


「その戦いでも、俺たちは生き延びようと必死だった。嵐みてえな弾幕をかいくぐり続け、艦に取り付いた、その時だった。味方……いや帝国軍クソ野郎どもが、背中から艦砲射撃をブチ込みやがったんだ……!」


 テーブルに拳をダンッと叩きつけ、立ち上がるパトリック。

 割れたグラスの掃除に来たマスターにも気にかけず、怒りに満ちた言葉を吐き出し続ける。


「一番後ろにいたラファエルが気づいて、警告した。けどよ、もう遅かったんだよ。たまたま戦場の端にいた俺たち4人は助かったけどよ……あとの、奴らは…………クソッタレがぁっ!」


 パトリックは全身を震わせながら、怒りをあらわにする。何が起きたかは、ゼルゲイドとアドレーネにも伝わっていた。


「はぁっ、はぁっ、はぁ……。この時から、俺はベルゼード帝国をゴミとしか思っていなかった。信用できるのは、仲間の3人だけ。俺は独房に叩き込まれるのも構わず、荒れに荒れていた。あんなに荒れたのは士官学校以来だぜ」


 叫んで怒りを発散したパトリックは、幾分落ち着いていた。だが、口調はいまだ荒いままだ。


「その頃の俺は、矛盾した感情を抱えてたな。あんな状況への諦めと、それでも仲間の3人……デュラン、エルト、ラファエルを守ることだけは諦めなかった、っていうな。そうしてくすぶってる時……ゼルゲイド君。君の父さんが、愛機であるシュヴァルリト・グランと共に8658部隊に放り込まれてきたのさ」




 今のパトリックの言葉に、ゼルゲイドは自分自身でも気づかぬまま、わずかに体を前に傾けていた……。

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