Mission049: 損耗

 その頃、ゼールドは専用艦“ナハト・ドラッヘ”に、何とか機体を着艦させていた。


「“黒騎士”……。噂は聞いていたが、まさかあれほどの強さとはな……」


 小破と呼べる損傷状況だったが、機体の状態が安定しない。着陸時にも、ふらついていた有り様であった。

 何とか機体を格納させると、胸部から降りる。


「閣下!」

「無事だ。整備と補給は任せる。私は用事があるのでな」


 ゼールドはあくまでも平静を装いながら、服を着替えた。




「私だ。アレクス」


 ゼールドは制服に着替えて執務室に向かうと、モニターを開いた。画面の向こうには、ゼールドと同様の服を着た――しかし、色は“青”の――男が控えている。

 男は確信を持って、ゼールドに問いかけた。


「ゼールド。首尾を伝えに来たか?」

「ああ。だが……」

「皆まで言うな。想像以上に強敵だったことは、お前の様子から窺い知れる」

「察しがいいな、アレクス。その通りだ……残念ながら、失敗した」

「だろうな。しかし所詮、あれらは使い捨ての駒に過ぎん。どれほど損耗そんもうしようと、まるで惜しくはない」


 アレクスと呼ばれた男は、淡々と呟いた。


「懲罰兵と機体の補充、感謝する。だが、私に次は無いだろう。あれとは……ゲルゼリアとは、どこかで決着を付ける必要がある」

「ゲルゼリア……“巨鯨きょげい”のことか?」

「そういう渾名あだながあるのか。そうだ、全長1kmを優に上回った、白を基調に赤と金で飾りつけた大型戦艦だ」


 ベルゼード帝国軍内には、既にゲルゼリアの噂が広まりだしていた。この話をMが聞いていたら、口元に笑みを浮かべること間違いなしである。


「それこそ、まさに“巨鯨”だ。たった1隻で、小なりとはいえ……艦隊を殲滅せんめつしたのだからな」

「噂が広まるのは当然のことか……。だが、厄介なのは艦だけではない。艦載機も別格の練度を誇っていた」

「戦ったのか?」

「ああ。唯一私に気付き、単機で仕掛けてきた大型機がいてな……小破させられた」


 アレクスが初めて、驚愕の様子を見せる。


「特徴はあるか?」

「端的に言えば、“黒騎士”だ。全身の装甲が漆黒に染められていて、既存のAdvancerアドヴァンサー凌駕りょうがする運動性を誇っていた」


 ゼールドは先ほどの戦いを振り返りながら、とつとつと語る。


「技量は並程度だが、それを補って余りある性能だった。加えて、未知の防御手段をも有している……私単独では、特殊能力を使っても勝ち目は薄かった。こうして生き延びるのがせいぜいだったよ」

「未知の防御手段? 光防壁でなくて、か?」

「ああ。恐らく、別種の防御手段だ」

「厄介なものだな……」


 アレクスが唸る。


「いずれにせよ、我々ベルゼード帝国軍が勝つには、ゲルゼリア……巨鯨とAdvancerアドヴァンサーを分断せねばならん」

「そこでお前のからめ手が活きるわけか」

「そうだ。そして巨鯨を沈めるには、お前の持つ対艦装備の全てが必要になるだろう。Advancerアドヴァンサー、携行武器、艦対艦装備など、全てな」

「長くなりそうだ。それに、困難な戦いになるだろう。懲罰兵ではない正規兵にも、どれほどの損耗を強いるか……」

「だが、巨鯨の撃沈は陛下の勅命だ。確実に沈めたい」

「ゼールド。20年来の付き合いが無ければ、いくら同じ“六天将”といえど、ここまで力を貸すことは無かったぞ」

「感謝しきりだ、アレクス。巨鯨を沈め、サロメルデ征服を成し遂げたら、酒でも奢らせてもらおう。青の“六天将”の力、存分に発揮してもらうぞ」




 二人の“六天将”は夜通し、今後の計略を語り明かしていた……。

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