Mission048: 振返

「終わった……のか?」


 突然の出撃中止を告げられたゼルゲイドは、状況をよく把握出来ていなかった。


「ああ。もう降りても大丈夫だ」


 そこに、パトリックからの無線が響く。

 同時に、プロメテウス隊のAdvancerアドヴァンサーが着艦していた。


「パト……プロメテウス1!」

「もうパトリックでいい、ゼルゲイド君。それより、この後作戦後会議デブリーフィングがある。一緒に行こう」


 パトリック達は話しながら、続々と機体を駐機させる。

 駐機状態で補給を受けていたゼルゲイドとアドレーネは、そのまま機体から降りて4人と合流した。


     *


「諸君、あれだけの数のAdvancerアドヴァンサーの波状攻撃、よくしのいでくれた。まずは座ってくれ」


 Mは食い気味に、ゼルゲイド達に着席を促す。全員が座ると、話を始めた。


「これより作戦後会議デブリーフィングを始める。結論から述べて、今回の防衛戦闘は我々の勝利と見てよいだろう。艦への損傷は無く、君たちも全員が生還した。これだけでも称賛に値する」


 表情はさほど変わらないが、本心からの言葉であることが声音からにじみ出ている。

 と、Mはゼルゲイドに視線を向けた。


「ゼルゲイド様。単独で何者かと交戦されていらっしゃったご様子ですが、相手は何者か教えていただけますか?」

「はい。“六天将”、ゼールド……」

「ゼールド・ガウス・ディンハイル。黒の“六天将”です」


 名前を思い出しきれずに詰まったゼルゲイドに代わり、アドレーネが補足する。

 と、Mは得心した様子で言葉を返した。


「なるほど。道理でゲルゼリアのレーダー出力を上げてほしいと、要請を出されたわけです」


 Mはひと呼吸おいて、プロメテウス隊の4人に向き直る。


「諸君、いい機会だ、解説させてもらう。今回ゼルゲイド様とアドレーネ様が交戦された敵は、黒の“六天将”、ゼールドだ。私の記憶に違いが無ければ、奴の階級は准将。搭乗機はバルゼネーレ。機体性能自体はさほどの脅威でないが、問題は奴や奴の配下の機体が有する特殊効果だ」

「特殊効果……ですか?」


 ラファエルの質問に、Mが頷く。


「ああ。“機体の透明化”能力を有している」

「なるほど。しかし、疑問があります」


 次に質問を挟んだのは、パトリックである。


「何だ?」

「自分の記憶が正しければ、以前に黒のリクシアスと交戦したはずですが……あの時はどうして、透明化していなかったのでしょうか?」

「簡単だ。あれは奇襲のために用いる能力であり、防衛戦闘には不得手。加えて、不意の交戦でもあった。手の内をこちらに晒したくないがための策だろう」

「了解しました」


 パトリックが質問を終えるのを見ると、Mはさらに続ける。


「我々は勝利を重ねて、今ここにこうしていられる。だがベルゼード帝国を相手取るということは、常に生きるか死ぬかの状況にあると知れ。知った上で、我々は目的を果たす。各員、肝に銘じておけ」

「「了解!」」

「よし。今回はこれで解散とする」


 Mは区切りを見て、作戦後会議デブリーフィングを終えたのである。




 ……それから1分後。

 誰もいなくなった部屋で、Mは呟いた。


「もしも懲罰部隊を大量に使い捨てているとしたら……。到底許せるものではないな、ファルゼイン」

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