Mission047: 理由

「こちらエクスカリバー! 後退完了、次は何をすればいい!?」


 シュヴァルリト・グランをゲルゼリアの近くまで後退させたゼルゲイドは、指示を仰ぐ。


『着艦し、補給を。完了次第、プロメテウス隊の援護に向かってください』

「了解した、M」


 指示を聞いたゼルゲイドはシュヴァルリト・グランを着艦させる。

 Mはそれを確かめると、プロメテウス隊にも指示を飛ばした。


『プロメテウス隊各機は本艦の直掩ちょくえんに付け。敵の艦載機だが、CIWS近接防御火器だけでさばき切れるか怪しい数だ』

「「了解!」」


 グリンドリンとリクシアスは、ゲルゼリアを背に4機編隊を組んだ。

 距離のある敵AdvancerアドヴァンサーならCIWS近接防御火器やVLSで始末するものの、文字通り取り付くことの出来るくらい近距離まで接近を許した場合、ゲルゼリアは無力である。ましてや既存の艦よりの数倍もの全長を誇る船体を有するのであれば、尚更だ。

 プロメテウス隊の役割は、"最後の砦”となることである。


「敵Advancerアドヴァンサー、一斉に接近してきました!」

「やはりな。予想通りだ」


 Mは淡々と告げると、無線機を手に取る。


『各機、深追いするな。撃墜されれば、本艦の防衛が難しくなる。それとだ、側面に回り込む敵機に注意してくれ。カタパルトから内部への侵入を試みているやもしれんからな』

「「了解!」」


 プロメテウス隊はその場から動かず、武器を構えて敵機の接近に備える。敵側からわざわざ距離を詰めてくれているのだ、慌てて動く必要などどこにもない。

 こうしてにらみ合っている間にも、距離はどんどん縮まっていた。


 一方でMは、CIC戦闘指揮所で新たな指示を飛ばしていた。


「VLS32基、発射準備。ミサイルの種類は対空だ」

「了解。VLS32基、発射準備開始!」


 火器管制オペレーターが、発射準備を進める。


「照準完了です!」

「よし。放て」

「了解!」


 発射スイッチが押されると同時に、16基のVLSが展開。合計128発もの弾頭が露出する。

 次の瞬間、一斉に炎を噴き出した。幾筋もの煙を描きながら、迫る敵Advancerアドヴァンサーへ向けて、バラバラに目標を定めて飛翔する。


「な、何だあのミサイルは!? 回避!」

「駄目です、間に合いま――」

「クソッ、脱出を――」


 音速の数倍もの速度でゲルゼリアに迫っていた敵Advancerアドヴァンサー達は、回避する間も無く、次々と撃墜されていった。しかし128発のミサイルをもってしても、やはり全滅とまでは行かない。


「敵Advancerアドヴァンサーの5割を撃墜したもよう」

「上々だ。しかし、まだ攻撃は続いている。防衛戦闘は継続するぞ」

「はっ」

「それとだ。敵艦の挙動や距離に注意しろ。砲撃を飛ばしてくる可能性も十分ある」


 あくまでも警戒を緩めず、敵の挙動に注意を払い続けるM。

 だが、敵艦はこれ以上距離を詰める様子が無い。それどころか、艦尾を向け始めた。


(どういうことだ……?)


 違和感を抱くM。

 と、敵艦がどんどん遠ざかっていく。


「て、敵艦、撤退していきます!」

「何だと……?」


 妙な動きを見せる敵に、Mは一瞬思考を巡らせる。


「追うな、逃がしてやれ。意図が掴めない。ただしプロメテウス隊は下げるな、レーダーから完全にロストするまで警戒を続けさせろ」

「了解」


 Mは頭を押さえると、静かに思考を続けた。


(お前にしてはお粗末な手段だな、ファルゼイン。Advancerアドヴァンサー数十台をおとりにして、より貴重な艦隊を逃がす……いや、違う! もしも今回の襲撃で撃墜したAdvancerアドヴァンサーが、いくら消耗しても惜しくない8658部隊のような存在だったら……? ゼルゲイド様のお父様やプロメテウス隊が逃げたとはいえ、あの忌まわしき制度そのものはまだ続いているはずだ……。いずれにせよ、現時点では判断できんがな)




 この襲撃の行われた理由を、Mは薄々と勘づいていた……。

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