Mission045: 動揺

「そ、それは……」


 アドレーネの返した問いに、ゼールドは明らかに動揺していた。


「貴方の思慮深さは存じております。だからこそ、このように問いかけたのです。ゼールド准将、どうなのです?」

「否定は……しません」

「でしたら、ベルゼード帝国から逃げて……ゲルゼリアにいらしてみてはいかがでしょう?」

「アドレーネ様!?」


 ゼルゲイドは思わず、大声を上げる。

 だがアドレーネは、「静かに」と呟くだけで黙らせた。


「しばらくは拘束されるでしょうが、疑いが晴れれば自由を得られます」

「自由……ですか」

「ええ。貴方の実力を鑑みれば、暇よりも戦場を与えるのが我々にとっての利となります」


 アドレーネは包み隠さず、真意を述べる。


「自由、そして新たな戦場か……。有り難い申し出ですな」

「来ていただけますか?」

「ですが」


 バルゼネーレが、レールガンをシュヴァルリト・グランに向ける。


「今まで犠牲にした兵達を考えれば、私だけ都合のいいことをするつもりにはなれません。そのお話、お断りさせていただきます」

「貴方がこのシュヴァルリト・グランに勝てるとお思いですか? "黒騎士”の子が駆る、この機体に」

「勝てる勝てないの問題ではないのですよ。私はここで、"六天将”としての責務を果たす。それだけです」


 その言葉を言い終えると同時に、ゼールドは操縦桿の引き金を引いた。

 同時にバルゼネーレの構えるレールガンから、高速で弾体が発射される。


「当たるか!」


 ゼルゲイドは当然のごとく、攻撃を回避する。彼にとってレールガン程度の攻撃は、大した脅威になっていなかった。


「やはり、当たりませんか。ですが!」

「やめなさい、ゼールド准将!」


 抵抗を続けるゼールドを見て、アドレーネは止めようとする。


「無駄です、アドレーネ様。どうあっても、戦うつもりですよ」

「ですが!」

「彼の言う通りです。私はもう、引き下がれません!」


 既にゼールドは、アドレーネの知り得ないところで覚悟を決めていたのである。

 アドレーネがかけた慈悲の言葉は、届かなかった。


「これ以上……撃たせるか!」

「やめて、やめなさい二人とも! 殺し合う必要までは無いはずです!」

「どうにもなりませんよ、アドレーネ様……!」

「その通り。死ぬか、生き長らえてもベルゼード帝国に仕え続けるか……それだけです!」


 アドレーネは自らの想像の外にある、ゼルゲイドとゼールドの意思に驚愕していた。Mの教育を受けていた彼女は――他人の意思を大事にはしつつも――自らはあくまでも合理的に動く性格となりつつあったのである。


 しかしその価値観を、目の前で壊されてしまった。世の中には自身の知らない考えがあることを、見せつけられてしまったのだ。


「あ……。そん、な……」

「アドレーネ様、口は閉じておかれるのが良いかと。舌を噛みます」




 ゼルゲイドの警告にも耳を貸さず、アドレーネはただただ、放心していたのである。

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