Mission042: 看破

「当たった……!」


 ゼルゲイドは黒煙をたどり、敵Advancerアドヴァンサーとの距離を詰める。

 自ら痕跡を発している以上、もはや不可視ではなかった。


 と、何かが開く音がゼルゲイドの耳に伝わる。

 そして、丸みを帯びた物体がいくつも落下してきた。


「何だ、ありゃ……?」

「ゼルゲイド様!」


 アドレーネが叫ぶのと、物体がシュヴァルリト・グランに突進するのはほぼ同時だった。

 尾部から炎を吐きながら、勢いよく向かってくる。


「うわっ!」


 ゼルゲイドの反射神経をもってしても、かわしきれない。

 だがアドレーネは、再び球体状のバリアを現出させていた。


「……あれ、何ともない?」

「これは私の、“生きたい”という願いですわ」

「アドレーネ、様……?」

「今は前を向いて、敵の姿を見据えるのです。ゼルゲイド様」


 アドレーネの言葉を聞いて、ゼルゲイドは前を向く。

 と、黒煙を吐いているAdvancerアドヴァンサーの正体が、徐々に浮かんできた。


「この“バルゼネーレ”を捉えるとはな。まずは見事と言っておこう、“黒騎士”よ」


 オープンチャンネルで、Advancerアドヴァンサー“バルゼネーレ”のパイロットであるゼールドがゼルゲイドに呼びかける。


「俺じゃねぇ。ゲルゼリアの力だ」

「だとしても、私に当てた時点で並々ならぬ技量の持ち主であることは明らかだ」

「そりゃどうも。受け取っておくよ。それで?」

「『それで』とは?」

「とぼけんじゃねぇ。オープンチャンネルで話しかけてきたってのは、俺に挨拶するだけじゃねぇだろ」

「フッ……」


 ゼールドはわずかに笑うと、改めてモニター越しにゼルゲイドの目を見据える。


「その通りだな。私とお前は、殺し合うためにここにいる。ならば、兵士の本分を果たそうではないか」

「だな。だが、これは決闘じゃねぇ。5対1でやらせてもらうぜ」

「構わんよ。“六天将”が一人、黒のゼールド……ゼールド・ガウス・ディンハイルは、これしきの不利などものともせんからな」


 その言葉に合わせ、バルゼネーレがレールガンを構える。


「行くぞ。このバルゼネーレの全力をもって、お相手致す」


 ゼールドは短く呟くと、機体を前へと加速させた。レールガンを放ち、大型ナイフを抜きながら、ゼルゲイド達との距離を詰める。


「おっと……! やけに単純な動きだな。ヤケクソか……?」

「違うみたいですわ」


 アドレーネが呟くのに合わせ、バルゼネーレは急降下してゼルゲイド達の視界から外れようとする。

 透明化していないとはいえ高いステルス性を有するこの機体は、一瞬視界から外れただけで「消えた」と錯覚させうるポテンシャルを有しているのだ。


「その手は食わねえぜ。プロメテウス隊、高度をバラバラにしろ。全方位探せ!」

「「了解!」」


 パトリックの指示通り、4機が高度を少しずつ変えて捜索する。

 被弾のために透明化機能を喪失し、レーダーに対してのステルス性だけとなっていたバルゼネーレは、たやすく見つかった。


「隊長、発見しました! けど、雲に潜っていきます!」

「プロメテウス4、追うなよ。エクスカリバー。今からプロメテウス4に、あの黒い機体が向かったおおよその場所へ向けて発砲させる。そこに突っ込んでくれ。ただ、罠には気を付けるんだ」

「了解です、プロメテウス1」


 雲中での待ち伏せを警戒し、ゼルゲイドのシュヴァルリト・グランに対応させる作戦だ。

 本来ならプロメテウス隊で当たるのが手っ取り早いのだが、パトリックは敢えてそうしなかった。


「よし。プロメテウス4、撃て!」

「了解!」


 ラファエルの乗るリクシアスが、雲に向けてマシンガンを放つ。


「あそこだ。行け!」

「了解!」


 ゼルゲイドは弾丸が撃ち込まれた方向に、最大速度で向かっていった。

 それを見たパトリックは、僚機に告げる。




「各機、ゲルゼリアの援護に向かうぞ」

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