Mission039: 要撃

「全パイロットに通達! 緊急出撃命令スクランブルだ。繰り返す、緊急出撃命令スクランブルだ!」


 オペレーターの声が、艦全域に響き渡る。

 ゼルゲイドとアドレーネは、急いでシュヴァルリト・グランの眠っている格納庫へと向かった。


「クソッ、またか! やけにスパンが短いな!」

「敵は多いはずですわ。仕掛けるだけでなく、迎え撃つ必要もある……致し方無いことかと、ゼルゲイド様」

「ですね。今は出撃し、驚異を排除するのが先です。しかし、こうも早いとは……聞く暇すら無かった」


 予定が崩されたことに、ゼルゲイド様はモヤモヤした気分になる。

 だがそれを振り払うように、いっそう速さを増して走った。




「おはよう、シュヴァルリト・グラン! 早速だけど、また行くぞ!」


 格納庫に到着し、自身の愛機シュヴァルリト・グランに搭乗したゼルゲイドとアドレーネは、すぐさま起動シークエンスを完了させた。

 そのまま誘導に従って、カタパルトまで向かう。


「発進準備完了! いつでも行けます!」

「了解! シュヴァルリト・グラン、出るぞ!」


 シュヴァルリト・グランを乗せたカタパルトが、電磁加速によって勢いよく前に進み、機体を打ち出す。

 構造上スキージャンプ台のように出口付近が高くなっているのも相まって、シュヴァルリト・グランはすぐさま上昇した。


「こちらエクスカリバー、発進完了。作戦目的の伝達を求む」

「エクスカリバー、こちらM。1時の方向から、敵Advancerアドヴァンサーが多数接近中です。種別はリクシアス」

「M、アドレーネですわ。リクシアスの色は?」

「黒と青です。どちらも同じくらいの数がおります」


 その言葉を聞いて、アドレーネは表情を険しくする。


「以前とは違うようですわね……。ゲルゼリアを本気で沈めるつもりでしょうか?」

「その可能性はあるかと」

「M。リクシアス以外の機体を見つけたらただちに報告を」

「はっ。お気を付けて」


 Mの言葉を聞いたアドレーネは、強く頷く。

 同様に聞いていたゼルゲイドも頷きながら、シュヴァルリト・グランの操縦桿を握りしめた。


 それに続いて、パトリックから無線が入る。


「エクスカリバー、こちらプロメテウス1。敵は大規模で、しかも分散している。俺達も3隊に分かれるぞ!」

「了解! 今まで通りですね!」


 フェイスウィンドウの向こうで、パトリックが頷く。

 それを見たゼルゲイドは、機体を全速力で前に進めさせた。


「来やがれ、リクシアスども! いい加減てめえらの動きには飽き飽きしてんだよ!」


 ゼルゲイドはゲルゼリアを守るために、闘志を燃やす。

 だがアドレーネは、5Gジーの荷重に耐えながらも、別のところに思考を巡らせていた。


(妙ですわね……。前回の襲撃から、まだわずかなときしか経っていないはず。あのときは規模からして全力ではなかったとはいえ、作戦を失敗してからこうも早く、二回目の襲撃を行えるほどの兵力を整えられるのでしょうか……?)


 ゼルゲイドがリクシアスを次々とほふり続けている間、アドレーネはずっとこのことに疑問を持ち続けていた……。




 そして疑問を持ち続けているのは、アドレーネだけではない。

 指揮官、いや司令官でもあるMもまた、襲撃の起こる間隔の短さに、違和感を抱いていた。


(こうも迅速に、第二波を差し向けるとはな。エゾン補給基地を落とす前のあれは、威力偵察だったとでもいうのか……?)


 頭の中には疑問を抱きながらも、Mは迅速に実弾・ビームを問わない全てのCIWS近接防御火器を展開させる。

 現時点でのまともな戦力は、機数だけで言えばわずか5機だ。いかにプロメテウス隊やゼルゲイドが高い練度を持つと言えど、何機も防衛ラインをすり抜けてくるのは明白だった。


(だが、そうやすやすとこのゲルゼリアを沈められると思うな。嵐の如き砲弾、その身に受けるがいい)




 Mは余裕を持って、眼前の敵に備える準備を全て整えた。

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