Mission038: 過去

 エゾン補給基地攻略から24時間後。

 ゼルゲイドは自室で、一人思い悩んでいた。


「不名誉……不義密通、か。アドレーネ様が言ってたことだけど、何のことかは聞いてなかったな」


 上半身は裸にシャツを着ただけ、下半身はズボンを履いている状態で、ベッドの上で仰向けになっているゼルゲイド。

 と、彼の耳に、ドアが横に開く音が聞こえた。


「ゼルゲイド様、お邪魔しますわ」

「アドレーネ様……」


 ゼルゲイドは慌てて、服装を整えようとする。が、アドレーネはやんわりと止めた。


「構いませんわ。私が勝手に、お邪魔しているだけですもの」

「では、お言葉に甘えて……」


 ゼルゲイドが楽にする様子を見て、アドレーネは隣に座る。

 そして、ゆっくりと体を近づけ、ゼルゲイドに密着した。


「アドレーネ様?」

「ふふっ、ゼルゲイド様。前から思っておりましたが、そのお体……メロメロに、なってしまいますわ」


 アドレーネが惚れるのも無理はない。

 ゼルゲイドの体はとても引き締まっており、しかも背丈もかなりのものだ。まさに“筋骨隆々の偉丈夫”と形容すべき肉体であるのだ。


「抱きしめさせて、いただけますか?」

「ええ……是非」


 かくいうゼルゲイドも、アドレーネの体に見とれていた。

 小柄なアドレーネであるが、それに似合わぬ豊かな胸を持っている。彼女がゼルゲイドを抱きしめれば、必然、胸は押し付けられるのだ。

 男であるゼルゲイドに、その柔らかな感触は抗いがたいものである。


「……ッ」


 気づけばゼルゲイドも、アドレーネを抱きしめていた。


「あら……うふふ、ゼルゲイド様。大胆ですこと。ですが、嬉しいですわ」


 アドレーネは拒まず、ゼルゲイドの求めるがままに任せる。

 自らもまた、ゼルゲイドを抱きしめた。


「ふふっ……ずっと、こうしていたいですわね。大好きですわ、ゼルゲイド様」

「私もです。アドレーネ様」


 アドレーネの好意にどう返すべきか、いまだ踏ん切りのつかぬゼルゲイド。

 しかし今は、目の前の至福の時間を味わうと決めた。


(そういえば、聞きたいことがあるけど……いいか、後にしよう。無粋が過ぎるしな)


 二人はしばらく、抱きあっていた……。




「アドレーネ様」

「何でしょう? ゼルゲイド様」


 やや時間が経ってのこと。

 ゼルゲイドは潮時と見て、話を切り出す。


「アドレーネ様は、どこまで父さんの“不名誉”をご存知なのですか?」

「そうですね、ゼルゲイド様。“8658部隊”在籍中に関わる事柄以外であれば、ほとんど知っていると言って差し支えないでしょう。もっとも、ほとんどがMからの伝え聞きですが……」


 さらりと話すアドレーネ。

 しかしゼルゲイドは、耳慣れない言葉を聞いた。


「“8658部隊”……?」

「はい。ゼルゲイド様のお父様が、かつて在籍していた部隊です。今は存在しませんが……いえ、敢えて言うのであれば、『プロメテウス隊』と名を変えている、と申し上げます」


 ゼルゲイドの表情が、みるみるうちに驚愕に染まっていく。


「プロメテウス隊……!? パトリックさんやデュランさんですか!?」

「はい。彼らも元は、8658部隊にいた身。Mが助け出し、このゲルゼリアに収容するまでは、寝食を共にしていらしたのですわ」

「なるほど、父さんが俺のことを話したのか……。道理で初対面なのに、俺を知っていると思ったら……」

「彼らであれば、8658部隊の話を聞けるかと存じます。ゼルゲイド様、尋ねてみてはいかがでしょう?」

「もちろんです、アドレーネ様。今までは聞くに聞けない話でしたが、俺はどんな真実でも受け止めます」


 ゼルゲイドが起き上がり、身支度を整えながら部屋を出る。

 アドレーネも、後に続いた。


     *


 その頃。

 CIC戦闘指揮所にいたMは、レーダー手からの報告を受けて指示を飛ばしていた。




「全パイロットに出撃命令を伝達しろ。急げ」

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