Mission037: 鮮烈

 サロメルデ王国の大隊が1つ、「フィアー大隊」。

 彼らはベルゼード帝国に侵略されつつある王国において、独自の作戦行動を取り、幾度となく帝国軍部隊を撃退してきた。

 本来であれば認められない独自行動だが、フィアー大隊の属している連隊――大隊よりさらに一段大規模な隊――が壊滅したのだ。それに加え、行動はサロメルデ王国の利益となりうる。よって、彼らの独自行動は黙認されていた。


 大隊長は偵察兵から得た情報を元に、対艦戦闘への準備も整えさせたうえで奇襲に向かった。

 地面に機体の足が接触しそうなほどの低高度で、レーダーの目を欺き続けている。


「各機、そろそろだ。掛かるぞ……待て、何だあれは?」


 大隊長は第4世代Advancerアドヴァンサー“アルガム・アレス”のレーダーに、敵反応を5つ捉える。

 反応は徐々に近づき――真紅の機体が5機、姿を見せた。


「あの機体……“六天将”エルンか!」

「大隊長、どうしますか?」

「数はこちらが圧倒的に上だ! いかに“六天将”といえど、囲んでしまえば……!」


 アルガム・アレスとアルガムで構成されるフィアー大隊が、一斉に動き出す。

 その様子を眺めているエルンと紅の薔薇隊ローテ・ローゼンは、余裕の笑みを浮かべていた。


そんな機体アルガムで私達を討ち取ろうというのか。笑止」

「ですね、閣下。せめてこの10倍は用意してくれないと、物足りないというわけです」

「そうだな、ローゼン1。さて、ローゼン0より各機。各自の裁量で敵戦力を殲滅せよ。私は単独で当たる」

「了解。ご武運を」


 エルレネイアが編隊から分離し、抜刀してフィアー大隊を迎え撃つ。

 紅の薔薇隊ローテ・ローゼンもまた、2機ずつに分離した。


「2、一緒に来い。3、4はエレメント2機一組を組め。1機ずつ確実に屠るぞ!」

「「了解!」」


 単純計算で6倍強にもなる数を前にしても、エルンと紅の薔薇隊ローテ・ローゼンは淡々と、作戦行動に取り掛かっていた。


「そんな見え見えの射撃、当たるものか」


 飛来する無数の銃弾の雨を、紅の薔薇隊ローテ・ローゼン4機は同時に回避する。しかもエレメントを保ったままだ。


「反撃する」


 紅の薔薇隊ローテ・ローゼンAdvancerアドヴァンサーは、めいめいに銃を取り出して構える。アサルトライフル、ビームカービン、レールガンと、種類はバラバラだ。


「遅い!」


 休みなく放たれる銃弾の中でも、一瞬の隙を突いて反撃する。

 アルガムは無防備に銃弾を受け、次々と一撃でほふられていった。


「よ……4機ロスト! いえ、6機です!」

「何という練度……!」


 大隊長はエルン達5機を前にして、味方と同数、いや倍する数を相手にしている錯覚に陥り始めていた。

 鋭く、明瞭な飛行機雲を生み出す機動に、大隊の誰もが追従しきれず、隙を晒しては次々に撃墜されていく。


「機体性能の差か……ベルゼードめ!」

「それだけじゃない、あんな機動どうやったら……うわあぁっ!」

「よくもシグルドを……がっ! くっ、くそ、推力が……」


 大隊の誰もが認めざるを得ない磨き抜かれた機動で、エルンや紅の薔薇隊ローテ・ローゼンは次々と背後を取り、アルガムや小隊長・中隊長のアルガム・アレスを墜としていく。


 機体の差に、技量の差。

 数を頼みに押し潰そうにも、包囲を軽々と突破して各個撃破する戦術ではそれも望めなかった。


「だ、大隊長……機体の半数が、撃墜されました!」

「ここまで……か。せめて生き延びることを考えねばな」

「大隊長、我々が食い止めます! 撤退を!」

「いらん。脱出するなら機体が無事な内にしろ。奴らも降下中のパイロットを狙うほど外道ではあるまい」


 勝機はもはや無いも同然だった。

 そもそもフィアー大隊は港湾設備や、停泊中の艦船を襲うことを予定していたのだ。“六天将”や紅の薔薇隊ローテ・ローゼンというトップエースなど、想定外もいいところである。


 そうしている間にも、味方のアルガムがさらに撃墜される。

 大隊長達に時間は無かった。


「やむを得ません。大隊長、先に脱出させていただきます」

「言葉など不要だ。さっさと逃げるぞ」


 大隊長達はまだ自身と機体が無事なうちに、脱出レバーを引く。

 脱出を完了した直後、エルレネイアの剣が機体胸部を破壊した。


「何とか、間に合ったか……。さて、どうしたものかな」


 大隊長は降下するコクピットブロックの中で、今後を考えていた……。


     *


 その頃。

 全てのアルガム、またはアルガム・アレスを撃墜したエルン達5機は、悠然と脱出する大隊長達を見下ろしていた。


「他愛もない……。そう思いませんか、閣下?」

「ああ。しかし明らかに対Advancerアドヴァンサー向けではない装備があった。もしかしたら、我々の母艦であるローテ・ドラッヘや、周囲の艦あるいは設備を狙う腹づもりだったのかもしれん。そう考えると、無意味とは思えんな」


 口ではそう言うものの、エルンはこの勝利を淡泊なものと思っていた。


「さて、お前たち。酔いはめたようだな」

「「はっ!」」

「いい返事だ。周辺に敵影無し、帰投するぞ」




 エルン達5機は、そのまま港近くの格納庫へと向かったのであった。

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