Mission036: 流麗

 十数時間後。

 酔いをほとんどまし、平衡感覚を取り戻しつつある紅の薔薇隊ローテ・ローゼンの4人は、エルンの指示で各自のAdvancerアドヴァンサーを回収しに向かっていた。

 運転手付きのジープで、格納庫へ向かっていく。


「戦力の補強か……。他に新しい任務も最近は無かったから、潮時なのかもな」

「ですね、クルト隊長。それに、また閣下の元で飛べる。嬉しい限りです」

「ディートヘルムの言う通りだ。エルン閣下と同じ空を飛べる、こんな嬉しいことはねえ! そうだろ、ローベルト!?」

「はい! 是非とも閣下に、僕達の力を示しましょう!」


 話している間に、ジープは格納庫の近くまで来ていた。検問にて全員の身分照会が終わると、さらに奥へと向かっていく。


「到着しました。皆様の格納庫です」


 運転手の案内で、4人はジープを降りる。

 手にはそれぞれ、始動キーを握っていた。


「よし。手早く済ませるとしよう」


 格納庫に入った4人は、自身の機体まで向かう。

 機体の胸部近くにたどり着くと、開いている空間からAdvancerアドヴァンサーに搭乗した。


「起動シークエンス、開始」


 キーをスリットに差し込み、エンジンを叩き起こす。

 吸排気音を響かせた4機のグリンドリンが、カメラアイを強く発光させた。


「ローゼン1より各機、平衡感覚に問題は無いか? 何かあったらかついでやる」

「ローゼン2よりローゼン1、こちら問題無し」

「ローゼン3、問題無し!」

「ローゼン4、問題無しです」


 全員が平衡感覚や認識に、異常を抱かなかった。量は少なく、そしてそこまで強い酒でなかったのも影響したのだろう。

 機体の操作は鋭く、歩行もまっすぐだ。地上での操作には支障が無かった。


「よし。ローゼン1より各機、カタパルトまで向かうぞ。大した距離でないとはいえ、飛行の必要があるからな」

「「了解」」


 誘導に従い、グリンドリン4機が陸上に設置されたカタパルトまで向かう。真紅に金、特徴的なカラーリングを有する4機が整然と歩むのは、見るだけで練度の高さを把握できるほどだ。


「各機、一斉に上がるぞ。20カウントだ」


 ローゼン1あらためクルトが、カウントを始める。

 0になると同時に一斉に空へと上がる、その意図を察した副隊長と隊員2人は、刻々と減るカウントに備えていた。


「10, 9, 8」


 何の支障もなく、カウントが進む。


「7, 6, 5, 4」


 紅の薔薇隊ローテ・ローゼン全員の顔に、笑顔は無い。


「3, 2, 1」


 それは緊張によるものだった。


「0!」


 そして、カウント0と同時に、4機が一斉に空へ上がった。

 見事な編隊を組み、一糸乱れぬ流麗な動きで同時に、まったく同じ高度へ到達する。


「上手くいきましたね……!」


 ローゼン4である、ローベルトが呟く。


「ああ。曲技飛行隊としての役割もある俺達だ。日々、積み重ねていかないとな」


 “六天将”直轄の精鋭部隊である紅の薔薇隊ローテ・ローゼンの名は伊達ではない。

 極限まで磨き上げられた統率は、見た目の美しさもさることながら、実戦においても高い有効性を発揮していた。


「後は合流するだけだ……む?」


 クルト達は自身の機体のレーダーに、青い光点を発見した。

 それなりの距離があるが、紅の薔薇隊ローテ・ローゼンの機体は全て指揮官機のグリンドリンだ。レーダーによる索敵範囲も強化されているため、捕捉できたのである。


「閣下のエルレネイアか……。どうしたのだろう?」


 急接近するエルレネイアに、通信を試みる。


「閣下。どうされましたか?」

「お前たち、ちょうどいいところにいた。残存しているサロメルデ王国の大部隊が港を奇襲するという情報を掴んでな。急きょ、防衛に向かうことになった。本来であれば私一人でも十分に対処可能な規模なのだが、人手は多いに越したことはない。来てくれ」

「「はい、閣下!」」


 紅の薔薇隊ローテ・ローゼンのグリンドリン4機は、エルレネイアと合流する。

 隊が2つに割れ、真ん中にエルレネイアを招き入れた。




 そして綺麗なV字型編隊を組むと、そのまま北へと向かって行った……。

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