Mission035: 祝杯
「そうか。私がいなくとも、その刃は鈍らず……よくやった、クルト」
「光栄です、閣下。我ら
エルンはワインを、クルトと呼ばれた男やその他
「どうした、遠慮しているのか? 飲みたいものを飲め。私の財布を
「いえ、我々は
「そうか。だが、財布を空にする手段は、何も量ばかりではないぞ。まずは私が手本を見せよう」
エルンは酒場のマスターを呼びつける。
「ここの酒で一番高級なものはどれだ?」
「こちらでございます」
どよめきが、酒場を満たす。
「お、おい、あの赤い服の男……何てもんを頼みやがる!?」
「あれは一杯だけで、俺ら
自分たちには手の届かない酒を平然と注文するエルンに、他の客達、そして
「閣下!?」
「この程度、大したものではない。酒の強さもな。我々がボトルを1本空ける勢いで、飲もうではないか。エールもいいが、たまにはこういう“本物”も飲んでおけ。ものの見方が変わるぞ。……お前達もどうだ?」
エルンは護衛兵を見て、自身の注文した酒を勧める。
本来なら任務のために断るところだが、エルンの立場が立場だ。断るにも、相応の度胸が必要だった。
「で、では一杯だけ……」
「よろしい。マスター、ただちにボトルごと買い取ろう。いくらだ?」
マスターの口から出た言葉は、先ほどの値段の50倍であった。ボトル丸ごととなると、額はさらに桁が上がる。
だが、それでもエルンは眉一つ動かさなず、淡々と伝えられた額を支払う。
「問題無い。足りているな。これで全額出したはずだが、どうだ?」
「確かにいただきました」
その場で支払いを終えたエルンを、いくつもの畏怖の目が見つめる。
次の瞬間、エルンは高々とボトルを掲げた。
「聞け、皆の者! 居合わせた全員で、共にこの美酒を飲もうではないか!」
次の瞬間、酒場には歓喜が満ちたのである。
「良かったのですか、閣下?」
「構わんよ。私は金に、手元に置いておく意義を見出さんからな」
数時間後。
居合わせた全員で最高級酒のボトルを
「それにこれは、お前たちとの再会を祝した記念でもある」
「光栄でございます、閣下」
頭を下げる
だがエルンは、内心では別のことを考えていた。
(彼らが合流した以上、
直接対峙したエルンは、ゲルゼリアの圧倒的な実力をよく知っている。
ローテ・ドラッヘという強化された専用の重巡洋艦をもってしても、勝利への道筋がまったく見えなかったのだ。
(とはいえ、今は再会を祝するとき。まだ、彼らに伝えるのは早いだろう。酔いが
エルンは姿勢を正しながら、休息のために仮の宿舎へと向かったのであった。
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