Mission034: 合流

「補給基地の壊滅を確認した。本艦は一時停泊し、この基地から使えそうな物資のいくらかを貰い受ける。しかし罠がある可能性も否定できない。十分な注意を払いつつ、整備部隊はAdvancerアドヴァンサーに搭乗して物資を回収せよ」

「艦長、係留錨アンカーは降ろしますか?」

「いや、降ろすな。外端部とはいえ、ここは敵地だ。いつでも逃げられるよう、補給基地の上空を緩やかに旋回する」

「了解。となると、護衛も付けるべきでは?」

「当然だ。全パイロットに通達。『整備部隊が物資を回収している間、護衛に当たれ』とな」

「了解!」


 副艦長は即座に、艦全域に通達する。

 それを聞きながら、Mは呟いた。


「ここからは、そう簡単にはいかなくなるな……。相手を知っているとしても、やはり奴の実力は認めなくてはならん。さて、老骨同士、化かし合いといこうではないか。ファルゼイン」


     *


 同時刻。

 ベルゼード帝国重巡洋艦にして“六天将”エルン・ガイゼ・デルゼント中佐が座乗艦“ローテ・ドラッヘ”は、最寄りのドックへ修繕のために向かっていた。


「“六天将”という立場の責任は大きいぞ、エルン・ガイゼ・デルゼント……」


 エルンは専用の執務室で自らを叱咤しながら、到着に備える。


(皇帝……奴から目をかけられているからか、いまだ何の咎めも無い。だが、だからといって安穏としていられるものでもない。しかし、シュヴァルリト・グラン……それにゲルゼリア。こいつらは、容易に対処できる相手ではない……。偽りの忠誠ではあるが、行動と結果で証を立てねば、私自身の望みが絶たれてしまう)


 気の休まらないエルンは大きく深呼吸し、呟いた。


「せめて彼らがいれば、ゲルゼリアはともかく、シュヴァルリト・グランに対応出来るはずだ……。しかし、あの機体に同乗していた娘。アドレーネ……か。つくづく運命というものは、我ら人間をもてあそぶのが好きだと見える」


 歯噛みするエルン。

 そこにノックの音が響き渡る。


「入れ」

「失礼いたします、閣下。間もなく到着致しますゆえ、報告に」

「それだけではなさそうだな」

「はっ。情報によると、紅の薔薇隊ローテ・ローゼンも同じ目的地に到着していると。うまくすれば本艦と合流し、戦力増加を図れます」


 その言葉を聞いたエルンは、笑みを浮かべる。


「そうか……噂をすれば、というものか」

「閣下?」

「何でもない、こちらの話だ。それよりも一刻も早くドックに本艦を預け入れ、受けた被害を修復する。手続きを済ませろ。私も同行する」

「やはり、彼らとの再会を願って?」

「ああ。サロメルデへの侵攻開始以来、ずっと話していないからな。これくらいは許してもらうし、許させる。……まさか陛下も止めはしないだろうよ」


 嬉しさで微笑むエルン達を乗せ、ローテ・ドラッヘは寄港した。




「ご苦労。私は“六天将”が一人、エルン・ガイゼ・デルゼント中佐である。艦の修繕を頼むぞ」


 艦から降り、エルレネイアを一時的に預け入れたエルンは、気晴らしに護衛を伴って散歩する。


「閣下? 閣下ではありませんか!」

「閣下!」

「エルン閣下!」


 そこに、若い男達の声が聞こえた。四人組の男はみなが一様に、真紅の服を身にまとっている。


「お前たち……紅の薔薇隊ローテ・ローゼンか! 久しぶりだな!」


 紅の薔薇隊ローテ・ローゼン

 エルン直轄の部隊であったが、作戦のために別行動を取っていたのだ。しかしこのドックにおいて、再び合流することになったのである。


「近くの酒場に向かいましょう。閣下」

「ああ。積もる話もあるからな」




 エルンは再会を祝し、少しばかり羽目を外すことを決めた。

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