Mission033: 制圧

 ベルゼード帝国軍の艦隊にまったく気配を悟らせず、駆逐艦の1隻を瞬く間に葬ったゲルゼリア。

 その威容を、徐々に艦隊に近づける。


「か、艦長……!」

「怯むな! あれほどの巨体といえど、撃てば沈むはずだ! 全艦、一斉砲撃!」


 バウマン大佐の命令で、残存9隻が一斉に砲撃を開始する。


(たかが1隻の艦、火力を集中させれば――)

「駄目です! 全く効いていません!」

「何だと……!?」


 だが、放った砲弾は全て、ゲルゼリアの光防壁の前に防がれていた。ただの一発も、直撃弾は無い。


 ゲルゼリアは悠々と、バウマン大佐の艦隊に向けて前進を続けていた。


「その程度か? 仮にもベルゼード帝国の艦隊なのだ。一発くらいは直撃させてみてはどうかね?」


 Mは余裕を含んだ声で、返答する。


「さて、我々もお返しをしなければならんな。第一副砲、ビーム砲での発射準備」


 あくまでも余裕を持ち続けるMに、バウマン大佐一同は戦慄する。Mはわざと、無線を筒抜けにしているのだ。


「2隻だ。次は2隻、駆逐艦を沈める」

「発射準備完了!」

「撃て」


 何の焦りも感じさせないM。

 バウマン大佐は慌てて指示を出す。


「全艦、回避!」

「遅い」


 だが、回避よりも先に、ビーム砲が放たれた。

 またも両端にいた駆逐艦2隻を、それぞれ一撃で轟沈させる。


「フィルス、ゼムス轟沈! 一撃です!」

「くっ、こうも簡単に艦を沈められるとは! 全艦、ただちに撤退!」


 バウマン大佐の心の中には、既に戦意は存在しなかった。

 駆逐艦3隻をいとも簡単に沈められ、しかもこちらの攻撃は一切が通じない。“絶対に勝てない相手”に対して、撤退は賢明な判断といえた。


 しかし。それを許すほど、Mは甘い男ではない。


「第一副砲、第二副砲、斉射。機関部を撃ち貫け。ところで、バウマン大佐のいる艦はどちらの巡洋艦だ?」

「我々から見て左側です」

「そうか。その艦は、すぐには沈めるな。動きを止めれば十分だ」

「勧誘するのですか?」

「いや。『思い知らせる』。大佐には、我々ゲルゼリアの広告塔となってもらおう」


 Mの口の端には、笑みが浮かんでいた。


「発射準備、完了しました!」

「よし。バウマン大佐のいる艦を除き、全て轟沈させろ」

「了解!」


 この指示も当然、筒抜けである。

 バウマン大佐の率いる艦隊は急いで回頭し、撤退を開始していた。


「全砲塔、撃て」


 Mは容赦無く、背面から砲撃を仕掛ける。

 接近を許してしまった時点で、ベルゼード帝国艦隊の敗北だ。至近距離からの砲撃は、わざと外さない限り外れることなど有り得ない。

 そしてMに、外してやる理由など無かった。


 たったの一斉射で残存駆逐艦、そして“バウマン大佐の座乗していない”軽巡洋艦計6隻が轟沈した。


「ぐっ……! み、味方全艦、轟沈! 残っているのはこの“ケルン”だけです!」

「運よく逃れられたか……? いや、違う! あの艦は、わざと我々だけを見逃したのだ!」

「我々だけを……!?」

「この距離で外すはずはない! 総員退艦、急がないとなぶり殺しにされるぞ!」


 バウマン大佐の予感は、的中することになる。




 既にゲルゼリアは、第二射の準備を開始していた。


「脱出艇が出ています、艦長」

「撃つな……いや、“巻き込むな”よ、副長。第二副砲、1番2番砲塔撃て。敵艦砲塔を破砕せよ」

「了解。撃ち方始め!」


 総員退艦が発令された“ケルン”の砲塔目掛け、レールキャノンが放たれる。

 基部に命中し、発射機能を喪失させた。


「命中。敵艦砲塔を無力化しました」

「全第二副砲で敵艦を直接破砕する。5秒ごとに、1番砲塔から番号順に撃て。外端部から徐々に心臓部へ近づけるように、砲弾をくれてやれ」

「了解」


 全16門のレールキャノンが、“ケルン”に狙いを定める。

 もはや今の“ケルン”には、反撃も防御も、そして逃げることすらままならない。


「撃ち方始め。5秒ごとに1発ずつ、撃て」


 Mの“死刑宣告”が、始まった。

 電磁加速を受ける200mm砲弾は、徐々に、だが確実に、“ケルン”の船体を削っていく。

 何発も何発も、砲弾が船体を撃ち貫く。やがて、無人と化した艦橋に、砲弾が直撃した。


 そして、ついに16発目の砲弾が放たれる。

 最後の脱出艇が出ると同時に、ベルゼード帝国軽巡洋艦“ケルン”は轟沈した。


「撃ち方やめ。これで宣戦布告はなっただろう」

「艦長、よろしかったのですか? 鹵獲ろかくという手も、ありましたが……」

「構わない。我々の威圧感を示すには、このくらいはしなくてはな」


 Mは少しも惜しむ様子を見せず、呟く。

 ベルゼード帝国艦隊の壊滅をもって、エゾン補給基地はM達に制圧されたのであった。


     *


 “ケルン”が沈むさまを見せられたバウマン大佐達は、脱出艇の中でゲルゼリアの恐怖を噛みしめていた。


「艦長のおっしゃる通りになりましたね……。ケルンは確かに、なぶり殺しにされた」

「ああ。だが、脱出艇は全て出た。ただの1そうも破壊されず、だ。今はそれを喜ぼう」


 つとめて冷静を装うバウマン大佐だが、内心は他のクルーともども、恐怖で満ち満ちていた。

 その恐怖心が、ある呟きを発させる。


巨鯨きょげい……」

「え?」

「あの巨鯨を墜とさねば、また艦隊がほふられてしまう……!」




 バウマン大佐はMの目論見通り、ゲルゼリアにおそれを抱いていた……。

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