Mission032: 移行

「各機に通達。ただちに着艦せよ。繰り返す、ただちに着艦せよ」


 副艦長の通達を聞いたゼルゲイド達は、徐々に攻撃を中止し始める。


「このタイミングでか。どういうことだ?」

「ゼルゲイド様。まだ奇襲は終わっておりませんわ。ゲルゼリアが近づいています」

「俺達を回収するためでは?」

「でしたら、わざわざ近づく必要はありませんわ。私達にゲルゼリアまで向かわせ、悠々と回収すれば済む話です」

「それもそうか……。分かりました、帰投します」


 ゼルゲイドは疑問を抱きながらも、素直に帰投し、着艦を終えた。

 プロメテウス隊の4機も、続々と着艦を終える。


「無事に帰れたが……“まだ奇襲は終わっていない”? どういう意味だ……」

「ゼルゲイド様。整備兵の皆様が待機しております。今のうちに整備と補給を」


 いまだに意味を掴みかねているゼルゲイドだが、機体をいったん格納庫に収め、補給を受け始めた。




「全機の着艦を確認しました」

「よし。作戦を次の段階へ移行させる」


 副艦長からの報告を受けたMは、艦全域に通達する。


「総員傾注。これより本艦は、対艦戦闘に移行する。繰り返す。これより本艦は、対艦戦闘に移行する」


 マイクを戻したMは、ただちに指示を送る。


「聞いた通りだ。対艦戦闘備え。主砲、第一副砲、第二副砲を展開せよ。包囲される可能性もある、全砲塔起こせ」

「了解! 主砲、第一副砲、第二副砲、全砲塔起動します!」


 全46基の砲塔が一斉に起動する。

 先ほどの火力支援とは違い、完全なる戦闘態勢。それも全方向からの襲撃に備えたものだ。


「このまま前進し、砲撃戦を行う。敵艦種知らせ」

「駆逐艦が8隻、軽巡洋艦が2隻。別個の艦隊が合流したのでしょう」

「そうか。だが、その程度の戦力とはな。素早い対応は称賛するが、所詮はそれだけの話だ。前進を続けろ」


 Mは数だけであれば圧倒的な差がある敵艦隊を、しかし余裕の笑みで見つめていた。




 その頃。

 ベルゼード帝国の艦隊は、エゾン補給基地の惨状を目にして呟いた。


「何というザマだ……。我らがベルゼード帝国の基地が、こうもやすやすと壊滅するなど」

「やったのは……サロメルデか? しかし、奴らにそんな余力があるとは思えんな……」

「待て。そもそもサロメルデに、あんな艦があったか……?」


 最大望遠したモニターに、白を基調として赤と金で飾りつけた、明らかに異様な大きさを誇る艦が映る。

 乗員の一人が、思わず呟いた。


「なんて大きさだ……。巡洋戦艦、いや戦艦以上ではないのか?」


 未知の敵に、警戒を最大限に強める。

 そのとき、状況が動いた。


「不明艦、前進してきます!」

「愚かな、直掩ちょくえんAdvancerアドヴァンサーも付けないとは。とはいえ、正体が気になるな。通信を入れろ、所属を問い詰める」


 臨時に編成した艦隊旗艦である軽巡洋艦の艦長は、不明艦に興味を持った。


「繋がりました」

「渡せ」


 部下からマイクを受け取った艦長は、まず自ら名乗る。


「こちらはベルゼード帝国が軽巡洋艦“ケルン”の艦長、ユリウス・バウマン大佐である。貴官らの所属を述べよ」

「我々はゲルゼリア王国国民、とでも名乗ろうか」

「は?」


 バウマン大佐は想定をはるかに外れた返答に、間の抜けた声を漏らす。

 だが、すぐに自失から立ち直り、さらなる質問をした。


「貴官の発言の意図が分からない。我々に把握できるように頼む」

「ならば分かるように伝えよう。ああそうそう、先に言っておく。我々はサロメルデ王国とは無関係の、独自勢力だ。分かるか?」


 Mが何やら手を動かしている。が、バウマン大佐のには正確に見えなかった。


「……正規軍ではないという意味か?」

「どうだかな。我々にとって、我々自身は正規軍のつもりだ」

「やはり意図が掴めん。……致し方ない。これより臨検を行う。機関停止し、我々を受け入れよ。従わない場合は――」


 その時。

 駆逐艦のうち1隻が、ほとんど音を立てずに艦橋と船体を貫かれた。


「ア、アルサズ轟沈! 弾速や発射音が聞こえなかった点からして、レールガンによるものかと思われます!」

「何だと!? いつの間に……!?」


 動揺するバウマン大佐を見て、Mは淡々と告げる。




「これでお分かりかな、バウマン大佐。我々は宣戦布告をするためにここに来たのだよ」

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