Mission031: 混乱

 その出来事は、突然だった。

 前線補給基地――名を“エゾン補給基地”という――の警備兵達は、突如として飛来してきた多数のミサイルを、ただ呆然と見るしかなかった。彼が気づいた頃には既に、ミサイルはAdvancerアドヴァンサー格納庫に突き刺さり、中に眠っているリクシアスやグリンドリンともども炸裂していたのである。


 異変はそれだけに留まらない。

 疾風――実際はレールガンの弾頭が生み出した衝撃波――が第二波を告げるべく吹き、続けてビーム砲が何発も基地に着弾した。そこからさらに間をおいて、巨大な弾丸までも基地内部に着弾したのだ。


 あっという間に、基地全体の面積のうち30%が焦土に包まれたのである。




「全機散開、ウェポンズフリー! 交戦せよエンゲージ!」


 パトリックの合図で、ゼルゲイド達は2機、2機、1機と部隊を分散させる。

 今回で三度目となるこの分け方だが、ゼルゲイドとアドレーネ、そしてシュヴァルリト・グランが参加してからは、常とう手段となりつつあった。


 押っ取り刀で出撃する基地防衛隊のリクシアスやグリンドリンを、ゼルゲイド達は離陸前に次々と片付ける。その中には、一歩も動き出せなかった機体もあった。


「残念だったな。だが、これが戦争だ。恨むなよ」


 パトリックは淡々と、眼下の敵機に告げる。

 ゼルゲイドはそれを聞きながらも、作戦通りに敵を屠っていった。


「これで何機だ?」

『ゼルゲイド様。敵戦力の約65%を排除しました』

「83機……最低でも残り45機程度か」

『いかにも。ですが、増援が現れてもおかしくはありません。くれぐれもご注意を』

「了解、M」


 警戒を続けつつも、ゼルゲイドはあくまでも容赦無く敵にビーム砲を浴びせていた。

 着実に敵の戦力を減らし、基地機能に大混乱を巻き起こしている。


 戦術面において、奇襲作戦というのは、成功――攻撃開始あるいは攻撃直前まで敵に気づかれなかった――すれば絶大な効果を発揮する。

 厳密には――攻撃を仕掛けているAdvancerアドヴァンサーは5機であるが、ゲルゼリアという圧倒的な戦力の支援で――“強襲”とも、または――あまりに迅速な攻撃のために――“急襲”とも呼べる攻撃であった。


 運よく起動に成功し、迎撃に向かったリクシアスもいたが、ゼルゲイド達とは士気も統率の完成度合いも違う。

 一発の命中弾も与えられず、一撃の近接攻撃も見舞えず、次々と撃墜されていった。


「何なんだ、こいつらは……!?」

「機体はベルゼードのものだが……うわああぁっ!」

「敵対的であることは明らかだ……! 各機、応戦せよ!」


 このエゾン補給基地は、いわば“喉元へ突き付けた刃”。サロメルデ王国が首都メイディアを陥落させる、大事な橋頭堡きょうとうほである。壊滅はすなわち、サロメルデ王国攻略の大幅な見直しを余儀なくされるものであった。


 それほどまでに重要な拠点であり、そしてこの基地はベルゼード王国にとっても最前線である。このような襲撃があることを、ベルゼード帝国軍は想定していなかったわけではない。

 しかし宣戦布告と同時に電撃的に展開された侵攻があまりに上手く行き過ぎ、「サロメルデ王国にはもはやロクな反撃手段が無い」と侮った。その代償が、今回の奇襲による壊滅的惨状である。


 基地防衛隊の残存戦力は、わずか2個小隊(8機)にまで数を減らしていた。


「何てことだ……。こうも一方的に、我ら帝国軍が押し負けるとは……!」

「せめて物資だけは始末せねば……」

「弾薬庫に誘爆させる。全ての残存部隊に通達せよ……待て、この反応は!?」

「味方艦隊だ! 助かったぞ!」


 ベルゼードのAdvancerアドヴァンサー達は応射しつつ、合流に向かった。


     *


 その様子を見ていたMは、決断を下す。


「潮時だな。副長、全パイロットに通達。着艦させろ」

「了解」


 鮮やかな奇襲を成功させたM。




 しかし、彼はまだ攻撃の手を止める意思を持っていなかった。

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