Mission027: 対話

 オーガスト王子たっての希望を受けたゼルゲイドは、衛兵の案内を受けて応接室に通された。


「よ、よろしくお願いします……」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 しかし、いざ二人きりになると、お互い緊張でガチガチに固まっていた。

 ゼルゲイドは王族を相手にするが故の緊張を、オーガストは英雄を相手にするが故の緊張を。


(どうしよう……。サロメルデを守ってくれたすごい人だけど、何から聞こうかな……?)

(どうしたものか……。相手は俺を慕ってくれているとはいえ、王族だぞ……? 迂闊な発言は、失礼になるのでは……)


 互いに配慮するがゆえに、状況はこう着状態と化していた。

 沈黙のまま、五分が経過する。


(弱ったな……。このままじゃらちが明かないぞ。仕方ない、俺のAdvancerアドヴァンサーの話でもするか……)


 ゼルゲイドは一計を案じ、実行に移す。


「オーガスト王子」

「はい」

「俺のAdvancerアドヴァンサー……シュヴァルリト・グランについて、話させてもらってもいいですか?」


 言葉を一度区切り、反応をうかがうゼルゲイド。

 と、オーガストは予想外の反応を示した。


「是非! 是非お願いします! サロメルデを守った英雄のAdvancerアドヴァンサーのお話、何としても聞いてみたいです!」

「分かりました……!」


 突然の変化に、ゼルゲイドは内心で驚いていた。


(なんて変わりようだ……! あんなにオドオドしていたのに、Advancerアドヴァンサーの話をした途端ここまで生き生きとしだすなんて……! もしかしたら、彼はAdvancerアドヴァンサーに……!?)


 しかしこの状況の変化は、ゼルゲイドにとってはむしろ喜ばしいものであった。何故なら、これをきっかけに話を広げられると見たからである。


 覚悟を決めた彼は、構わないとばかりに話した。


「シュヴァルリト・グラン……あれは、何年も前に建造されました。父さんから聞いた話だと、今から30年前には間違いなく存在していたそうです」

「なんと、30年以上も……! サロメルデのアルガムも設計・量産されたのは古いですが……まさか、それは一品ものですか?」

「はい。私も父も、同型機をまったく見ておりません。それにあの機体は、“試作機”ですから」

「試作機!? なんと素晴らしい響き……!」


 オーガストは目を輝かせて、ゼルゲイドの話に聞き入る。ゼルゲイドの読みは、的中していた。


「その通りです。私は父に伝えられただけなので直接知っているわけではありませんが……父に曰く、建造時期としては“第3世代”に属する機体です。高出力、高機動……そして単機で大隊、いえ32機を一度に相手取っても撃墜されぬ防御力。圧倒的性能を突き詰めた結果、シュヴァルリト・グランが完成しました」


 ゼルゲイドは、小さい頃に父から聞いたことをそのまま話す。彼にとって、シュヴァルリト・グランの出自は“伝承”だ。


「なるほど……。ですが、何かを得るには代償が必要なはず。シュヴァルリト・グランが払った代償とは、何なのですか?」

「流石、目の付け所が鋭い。そうですね……“機体の大きさ”、それが代償です」

「大きさ……ですか」

「はい。圧倒的な力を得る代わりに、一般的なAdvancerアドヴァンサーの1.7倍もの大きさまで巨大化したのです」


 一般的なAdvancerアドヴァンサーの全高は、18~20m程度である。

 機体によっては若干小型化、または大型化することはあっても、シュヴァルリト・グランの全高32mは、明らかに常軌を逸したものであった。


 そして機体の大きさは、被弾率にも繋がる。

 シュヴァルリト・グランには被弾を想定した耐弾・耐ビーム砲仕様の堅牢な装甲が施されているものの、それにも限度というものはある。Advancerアドヴァンサー32機を一度に相手取る想定をした対策として、装甲の強化だけでは不十分であった。


「ですが大型化を補って余りある、機体の機動力。並のAdvancerアドヴァンサーを上回る速度で、包囲させずに1機ずつ屠る……そのような設計思想だったのです。無茶にも取れるものですが、シュヴァルリト・グランにはそれを可能とする超大型クライン結晶型反応炉が、3基搭載されています」


 Advancerアドヴァンサーに用いる反応炉は、一般的な“中型”でも70cm四方の立方体状空間に収まるほど小さなものである。

 だがシュヴァルリト・グランに搭載されたものは、2m四方の立方体が3つ。Advancerアドヴァンサーに搭載するものとしては破格であり、これ1基であっても莫大な出力を生み出すのだ。本来は――小型に限るとはいえ――ゲルゼリアやローテ・ドラッヘのような飛翔艦に搭載されていてもおかしくはない代物である。


「そのようなものを……!? シュヴァルリト・グラン……聞けば聞くほど、面白い機体だ。是非、もっと話してください!」

「望む限り!」




 その後、ゼルゲイドは滞在可能時間のぎりぎりまで、オーガストにシュヴァルリト・グランの詳細を語った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る