Mission026: 謁見

「よく来てくれた、M、そしてアドレーネ姫殿下。ところで、そちらの青年は……初めて見るな?」


 玉座に座っている初老の男――サロメルデ国王、メイナード・ジーク・サロメルデ――は、今までにない来客に興味を抱く。

 明らかに該当するのは自分だけ――そう悟ったゼルゲイドは、つたないながらも礼の姿勢を取った。


「サロメルデ国王陛下におかれましては……まことに、ご機嫌うるわしゅう。俺……いえ、私は、ゼルゲイド・アルシアスと申します。サロメルデ王国に住んでいた身として、お会い出来て光栄です」


 父親から教えられた言葉を思い出しながら、何とか礼の口上を述べる。


「ははっ、実に結構! 豪快な青年と思っていたが、礼の心得もあるとはな!」


 大柄な見た目からは予想が付かなかったゼルゲイドの礼儀作法を見て、メイナードはいたく気に入る。

 ひとしきり笑ったあと、正体をMに尋ねた。


「さて、M。このゼルゲイドなる青年は、いったいどのような目的で私に会いに来たのかな?」

「その前に、メイナード。メイディア防衛戦は覚えているな?」

「ああ。もはや逃げる以外の道は無いかと思っていたとき、お前達が助けてくれたのだろう? 白と赤に、金で飾りつけた機体が4機」

「そこにもう1機いたはずだ。漆黒の、そして既存のAdvancerアドヴァンサーよりも大型の機体が」

「まさしく。4機に負けず劣らず、いやもしかしたらそれ以上の活躍をしていた」


「それを操縦していたのが、彼だ。そして、アドレーネ様も同乗されていた。ここまで言えば、分かるな?」


 Mの一言を聞いて、メイナードが目を見開く。


「そうか……。彼はサロメルデを守ってくれた英雄、というわけか」

「その通りだ。そして彼は、私が前に話した“黒騎士”の息子。計画においても、助力してくれるだろう」


 笑みを浮かべて話すM。

 その話を、ゼルゲイドは礼を取ったまま聞いていた。


(計画……ゲルゼリアの再興か。俺も父さんの不名誉の真実を暴きたいから同行しているけど……。M、貴方はいったい……)


 味方であることは間違いないものの、底知れぬ恐ろしさを秘めているMに対し、ゼルゲイドは心の奥底で畏怖を抱いていた。

 そんな様子を知ってか知らずか、メイナードが話を変える。


おもてを上げてくれ。救国の英雄は、丁重にもてなさなければならない」

「よろしいの……ですか?」

「ああ」

「では、失礼いたします」


 許しを得たゼルゲイドは、顔を上げる。

 と、Mが口を挟んだ。


「すまんが、あまり長くは留まれない」

「どのくらいだ?」

「あと2時間……いや、1時間半だな」

「承知した。となると、簡略なもてなしになるな……」


 悩むメイナード。

 と、ゼルゲイドが気を利かせて伝える。


「いえ、おもてなしを目的に訪ねたわけではありません。俺……いえ私は、丁重に辞退させていただきます」


 アドレーネとMもそれに続く。


「私も、お気持ちだけいただきますわ」

「私も言うに及ばずだ。お前に……いや、お前達に会えればそれで充分でな」

「それは何よりだ、M」

「気にするな。ところで、オーガスト王子。相変わらずの恥ずかしがりようだな? もう少し気楽に話しかけてみたらどうだい?」


 Mが呼びかけると、今まで一言も発しなかったオーガスト王子が、初めて喋りだす。


「そ、それは……」


 王子の視線は定まらない。

 アドレーネ、M、そしてゼルゲイドを、行ったり来たりしていた。


「小さい頃からずっとお世話になっている恩もありますし、その、気楽には……」


 人懐っこそうな容姿の王子だが、気心の知れない他人ゼルゲイドがいるからか、あるいは魅力的な容姿の乙女アドレーネがいるからか。実際の年よりも幼く見える顔を、真っ赤にしていた。


「け、けど……。ちょっとだけ、ちょっとだけゼルゲイドさんと話してみたいのは……」

「俺ですか?」


 ゼルゲイドはつい、素の口調で話しだす。


「おっと、失礼いたしました」

「構わんよ。“俺”でいいさ、ゼルゲイドくん」


 メイナードもまた、くだけた一人称をおおらかに許した。


「それで、オーガスト。ゼルゲイドくんと話してみたい、か。ゼルゲイドくん、この恥ずかしがり屋に付き合ってもらってもいいかい?」

「喜んで」


 ゼルゲイドとしても、断る理由は無い。

 ずっと住んでいたサロメルデ王国の王子と話せるのは、これがまたとない機会である。


「では……二人で、お話ししませんか?」




 ゼルゲイドの同意を受けたオーガストは、おずおずと話しかけた。

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