Mission024: 係留

 飛翔戦艦ゲルゼリアは現在、サロメルデ王国が首都メイディアへと向かっていた。

 以前にゼルゲイド達が守りきった場所である。


「メイディアまでは、あとどのくらいだ?」

「30分ほどです」

「そうか。既にそこまで戻っていたとはな」


 Mは艦長席に座りながら、呟く。


「次の目標は敵の補給基地だ。だが、物資を確実に獲得できる保証が無い以上、事前の準備は万全にしておかねばな」


 そう。

 戦いにおいて、「敵に物資を奪われるくらいなら」という思考で、撤退時に基地をまるごと焦土にするのは、ままある話である。

 だからこそ、Mは敢えて一度メイディアに戻り、万全の状態で前線の補給基地を攻略する算段なのだ。


「作業に要する予定時間は?」

「3時間程度かと。Advancerアドヴァンサーの手も借りますからね」


 Advancerアドヴァンサー本来の用途は空戦に特化したものだが、地上の歩行・走行能力もある程度は有している。何より、全高18m程度が標準となった今現在の機体からは想像だに出来ないものの、元々は作業を補助するパワードスーツだったのだ。

 純戦闘用の第5世代――リクシアスやグリンドリン――が主流となった今でも、そのような運用方法は想定されている。人型を取り、五指を有する以上は、人間と同様に操縦して大型の貨物を運ぶ行為も十分に可能である。


「それには、整備兵と予備のリクシアスを充てるとしよう。戦闘要員としてはほぼ戦力たりえない彼らだが、あれでもAdvancerアドヴァンサーの操縦技能を持った者達だ。代わりにパイロット達を休ませ、作戦に備えてもらおう。副長、命令の伝達を頼む。私はサロメルデ国王に根回しをするからな」

「かしこまりました」


 Mが席を立つと同時に、副艦長は整備班長を呼びつけた。


     *


 少しして、Mは艦長室で端末を取り出していた。


「私だ。Mだ。まだメイディアは無事か? ……そうか、それならいい。さて、本題だ。物資のいくらかを貰い受けたい。もちろん工房にある預け入れた物資も回収するが、それではいくらか心もとないからな。お前達もそこまで余裕が無いのは知っているが……何? 分かった。では、王城近くに艦を係留する。自然公園を借りるぞ。では」


 国王との通話を終えたMは、口の端に笑みを浮かべる。


「殊勝なことだ。もっとも、そういう約束だったからな。彼らは我々に物資を預け、我々はそれを運用し、かつ戦力を提供する……。メイナードとの間に積み立てた信用や信頼が無ければ、こう上手くはいかなかっただろう」


 端末をポケットにしまい、軽い体操をしたMは、自室を後にした。




「そろそろ到着だな。王城付近の自然公園は、どうなっている?」

「人一人いません」


 およそ30分後。

 Mの希望通り、無人と化した自然公園の直上に到着したゲルゼリアは、推力を完全にカットしていた。

 底部も変形させて平坦にし、全高を大きく低くしている。


係留錨アンカーを全基降ろせ。射出先に誰かいないかよく確認せよ!」

「了解。射出先の安全を確認。射出します!」


 人の高さほどもある錨が、何十本も同時に発射される。次々と地面に突き刺さると、張られた強固なワイヤーがゲルゼリアを一定の位置に固定した。


「係留成功!」

「よし、下船準備。Advancerアドヴァンサーのハッチも開け」




 ゲルゼリアは物資を搬入する準備を、手際よく整えたのである。

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