Mission021: 敗走

「何とか全機、戦域外に離脱出来たか……」


 ゼールド達ベルゼード帝国軍はうの体で、ゲルゼリアから逃走しきっていた。


「しかし、残ったのが旗艦であるこのナハト・ドラッヘと、エルン閣下のローテ・ドラッヘだけとはな。あの化け物の強さは承知していたとはいえ、これほどまでとは……」

「閣下。何なのですか、我々艦隊の大半をたった一斉射でほふった化け物は……」


 ナハト・ドラッヘの艦長からの問いに、ゼールドは見てはいけないものを見てしまったような様子で答えた。


「“飛翔戦艦ゲルゼリア”……それが、あの化け物の名前だ。後でエルン閣下にも伝えなくてはな……」


 いまだ恐怖で心臓が早鐘を打っているのを押し殺しながら、ゼールドはハッチを開くよう伝え、自身の機体を格納した。


     *


「陛下、申し訳ありません。作戦は失敗致しました」


 同時刻。

 既にローテ・ドラッヘの内部に帰投していたエルンは、謁見の間へ既に立ち入っていた。


「この失態の責任は、いかようにでも取るつもりです。言い逃れは、致しません」

『構わぬ。元より無理な命令であったのは心得ていた。失敗であっても、不問に付そう』

「ありがたきお言葉。ですが、それはまさか……?」

『“失敗を想定した上で命令したのか”、だろう? その通りだ』


 “皇帝”は頭を抱えながら、エルンに話す。


『元よりこれは、お前の報告にあった「赤と白に、金で飾られたリクシアス」の話が事実であるかを確かめるためだ。そしてお前が任務に失敗したところを見ると、余の推測は正しかったことになる』

「まさか、陛下……。陛下は敵の正体を、既にご存知なのですか!?」

『ああ。此度こたびのお前の任務失敗を告げる報を聞いて、確信した。……待て、ゼールドも来たか。奴は既に知っているが、この際だ。お前達に告げるとしよう。来い、ゼールド』


 ディスプレイの右側に、新たな枠が追加される。


『はっ』


 ゼールドの入室を見届けた“皇帝”は、話を続けた。


『ゼールド、お前は知っているだろうがな。此度こたびお前達を遣わして排除を図った敵、それは……“我がベルゼード帝国の裏切り者達”だ。広大なるベルゼード帝国においてもわずか数隻しかない貴重な超級戦艦、その貴重な一隻であるゲルゼリアを持ち出して離反した許しがたき愚か者ども……余は奴らが全て死に絶えるまで、怒りを絶やすことはないだろう』


 その言葉を聞いて、エルンは“皇帝”に悟られぬように握り拳を作った。


『だが、奴らは難敵だ。お前達“六天将”ですら敗北しうる程に。あの艦はアレクスの大部隊をもってしても、沈められる確率は五分と言ったところ……くれぐれも警戒を怠るな』

『かしこまりました、陛下』

「かしこまりました」


 “皇帝”はそこまで告げると、何の予告も無く話を終えた。

 しかし、ゼールドはまだとどまっている。


『エルン閣下。まずは無事で何よりだ』

「ゼールド閣下こそ、ご無事で」

『陛下のお言葉を聞いたな、エルン閣下。“飛翔戦艦ゲルゼリア”、あれこそが私の伝えたかった敵だ。そして敵は、我らの手の内を知り尽くしている可能性がある』

「心当たりが、あるのですか?」

『ああ。しかし、未確定の情報を伝えては、混乱を招きかねない。裏が取れ次第、改めて伝えよう。では、失礼する。ベルゼード帝国に栄えあれ』

「ベルゼード帝国に栄えあれ」


 ゼールドが退室したのを確かめたエルンは、自らもまた、謁見の間を後にする。

 去り際に、ぼそりと呟いた。


「ふざけるな……皇帝を僭称せんしょうせし者よ。愚か者は、貴様だろうが!」




 エルンの憎悪に満ちた声を聞いた者は、誰一人としていなかった……。

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