Mission020: 掃討

 その頃、ゼールドは自身の後方へ撤退していくエルンを見届けていた。


「エルン閣下は撤退したか……」

『ゼールド閣下、我々も撤退しますか?』

「ああ。ただし、全く何もしなければいい的だ。反撃しつつ、緩やかに後退せよ」

『了解。各艦、砲撃しつつ後退せよ。積極戦闘は不可、逃げる事を考えろ!』


 ゼールド麾下きかの駆逐艦、サーベルタイガー級5隻が一斉に砲撃を開始する。

 艦隊旗艦の重巡洋艦も、ビーム砲やレールガンで応射した。




「ふむ、やはり6隻ではこの程度か。恐れるに足りず、だな」


 だがゲルゼリアの防壁は、ゼールドの率いる艦隊の一斉砲撃をもやすやすと無効化していた。


「照準、完了しました! いつでも撃てます!」

「よし、防壁部分解除」


 レールキャノンの砲口を覆う防壁のみを解除し、発射態勢を完全に整える。


「撃て!」


 そしてMの号令に続き、一斉に砲撃が行われた。

 圧倒的な光と熱量が、そして音速を遥かに上回る実体弾の嵐が、ゼールドの艦隊へと襲い掛かる。


「か、回避!」

「駄目です、間に合いません……!」

「ならば防壁展開! 急げ……!」


 黒い外装を持つ6隻の船が、一斉に光防壁を展開する。

 しかしその程度の防壁など、ゲルゼリアの火力の前では紙同然だった。


『くっ、防壁が――』

『総員退艦、急げ――』

『回避だ、回避を――』


 恐怖と混乱で、無線が錯綜さくそうする。

 ビーム砲に視界を奪われ、入り混じった無線で聴力を奪われたゼールドの艦隊は、なすすべもなく。


 ようやく状況を認識できる状態になった頃には、旗艦の重巡洋艦を除いた全ての艦が轟沈していた。


「何という火力か……! くっ、こうなっては、もはや追い払うどころではない……機関全開、急ぎ回頭し離脱せよ!」


 ゼールドは内心の動揺を押し殺し、ゲルゼリアを注視しながら、重巡洋艦の上に乗ったまま撤退した……。


     *


「敵残存艦は撤退したようです」


 報告を聞いたMは、モニターを眺めながら笑みを浮かべた。


「そのようだな。まさか“六天将”ともあろう者が、戦力比を見誤るとは。それとも、これも何かの策なのだろうか……? ともあれ、だ」


 笑みを深めながら、Mは呟く。


「前線の補給基地は特定出来た。だが、パイロット諸君も疲労が蓄積しているだろう。休憩も兼ねて、一度メイディアに戻る。王族の皆様には悪いが、いくらか物資を融通してもらおう」

「防衛を果たした貸しがありますからね。持ちつ持たれつで行きましょう、艦長」

「ああ。もっとも、以前からの知り合いではあるから、何とでもなるがな。さて、パイロット達を呼び戻そうか」

「了解」




「Mから帰投命令だ。各機、格納庫に向かおう」


 パトリックの乗るグリンドリンが先行し、3機のリクシアスとシュヴァルリト・グランが格納庫へ向かう。

 垂直に3つ並べられた巨大な格納庫に、それぞれが自身の乗機を格納した。


「終わったか……」


 ゼルゲイドは納得いかない感情を抱えながら、帰投を完了させる。

 その心境を見抜いたアドレーネが、心配そうに話しかけた。


「ゼルゲイド様? どうなさいましたのですか?」

「ああ、アドレーネ様……」


 ゼルゲイドは機体から降りる気にもならず、シートに背を預けながら、気だるげに呟く。


「まだ、エルン中佐との決着が付かないのか……と思いまして」

「そういえば、今日は横槍が入ってしまいましたわね。恐らく、黒の“六天将”でしょうが……遠すぎて、姿は見えませんでしたわ。それよりも」


 アドレーネはゼルゲイドの前に向かい、正面から抱きついた。


「今日も、無事でいらっしゃいましたわね。ゼルゲイド様」

「その通りですね、アドレーネ様……」


 ゼルゲイドもまた、抱擁を返した。




 しばしの間、二人は互いに抱きあっていた……。

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